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第1話
家の中に自分たち以外の気配がある。東城は目を覚ました。ベッドサイドの時計をみると、朝で8時半をまわっていた。
広瀬は自分の隣で、まだぐっすりと眠っている。口を軽くあけて、穏やかに呼吸していて、安心しきった子供のようだ。
起こさないように注意して、ゆっくりとベッドから降り、床に散らばっている衣服から、自分の下着とズボンを拾い上げる。下半身だけ着ると、寝室を出て一階に静かに降りた。
玄関の近くから物音がしている。行ってみると納戸の前に石田さんがいて、小柄でぽっちゃりした身体を伸ばして掃除機やその他の掃除道具をだそうとしている。
「おはよう」と東城は小さい声で声をかけた。
石田さんはこちらをみる。「あら、弘ちゃん、珍しく家にいたのね。おはよう」と彼女は言った。
東城は石田さんのために、納戸から道具を出した。「今日は休み。それで、石田さん、実は、広瀬がまだ寝室で寝てるんだ。俺たち10時にはでるんだけど、二階の掃除後回しにしてくれないかな」
石田さんはうなずく。「もちろん、いいわよ。あなたたちは朝ごはんはどうするの?もしよかったら作るけど?」
「それは、うれしいな。ありがとう」東城はこたえた。
石田さんは、掃除は後にするといった。掃除機の音とかうるさいでしょうからね、と。実際は、広瀬がいるからバタバタしてほしくないという東城の気持ちを察したためかもしれなかった。
そして、朝食の材料を買ってくるといって出かけていった。石田さんは軽自動車を運転してこの家にきているのだ。駅前の24時間スーパーにでも行くのだろう。
東城は、広瀬を起こしに寝室に戻る。
「広瀬」と東城は何度か呼びかけた。
広瀬が口のかたちをむっとさせる。眠くて起こされたくないのだろう。起きるどころか、もぞもぞ動いて彼はブランケットに顔まで埋もれて行こうとしている。
「広瀬、起きろよ」と東城は言って、ブランケットをはぎとろうとした。「ちょっと、知らせたいことが」
広瀬は、ブランケットを抱きこんで離すまいとしている。この時点で結構力が入っているので、起きたことは確実だった。単に、東城にブランケットを力づくでとられるのが嫌なだけなのだ。
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