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第5話

 縮こまったミナイを見ると、思い出す。  僕の中で死に行く君。何もできずに、見守ることしかできなかった僕は、己の存在を呪わずにはいられなかった。機械であるのに。  世界中の誰よりも愛した君を、孤独のまま死なせてしまった僕は、なんてだめな相棒だったろう。 「許して欲しい、ミナイ。寂しかっただろう?」  僕たちは誰よりも密接な関係ではあったが、お互いに大きなへだたりがあった。  僕はツールであり続けようとして、ミナイは人であり続けようとした。命や存在を賭けてもいいほどに大事な相手だったからこそ、一線を越えられなかった。  僕とミナイとのプラトニックな関係が、尊く、美しかった。  まっとうな人生の終わりを迎えられていたのなら、ミナイは愚かな選択をしなかったと思う。  人生を全うし、老衰で死ぬ。数十年前は当たり前だった死は、この世界のどこを探しても見つからないだろう。  死という死が訪れる幸福は、希なのだ。大抵は、苦しみながら死ぬか、一瞬で死ぬかのどちらかだ。 「伝えてくれて、ありがとう」  落ち着くのを見計らってから、僕はミナイの肌に唇を這わせた。  反射的に抵抗してくる両手を押さえつけ、かまわず、音をたてて皮膚を吸えば、甘い喘ぎ声が僕の感覚器官を振るわせた。 「このまま、君を男として抱けばいいのかい?」  意地の悪い質問だったのかもしれない。  ミナイは羞恥を誤魔化すよう星が瞬き始めた空に視線をやって、小さく頷いた。 「恥ずかしがらなくたっていいんだよ、別段、珍しいことじゃあない」  僕の性別を、男として設定したのはミナイだ。  ナビゲーションの仮想体は、パイロットの性思考に左右される場合が多い。容姿がデフォルトのままだったのは、ミナイのなけなしの意地か、良心だったのかもしれない。抱いた恋心を気づかないようにするための、おまじないのように。  恥ずかしがるミナイをあやすよう頭を撫で、僕は制服の襟を頬で押しのけ、首筋にキスをした。 「……んっ、ナイン」 「大丈夫、上手くやれるよ。ミナイ、深く繋がりあおう。これから先、ずっと離れずに二人で生きて行けるように」  抱きしめて、制服を丁寧に脱がしてゆく。作りたての肌はやはり敏感で、少し触っただけでも可愛らしい反応を見せてくる。 「ミナイ、お願いがある」 「珍しいな、ナビゲーションからリクエストしてくるなんて」  たしかに、どちらかといえば、僕がお願いをされる立場だ。なんだか、貴重な機会を得た気分になってくる。 「なんてことはないよ。僕を、ミナイ好みの容姿に設定して欲しいんだ」  隠さないで、もっと愛を向けて欲しい。僕はミナイに覆い被さり、キスをあちこちに落とした。 「ああ……メモリーに刻んでおく」 「楽しみだな。君は恋人を一切作らなかったから、どんな顔が好みか、僕は予想が付かない」  触れるたび、顕著に反応を示すミナイに、はじめて目にするだろう無防備さを垣間見る。  人と機械。  魂と記憶。  全ての境界線が薄れ、徐々に一つになってゆくような不思議な感覚だった。戦闘に特化した本体では、けっして得られなかっただろう。ミナイは僕をもっと連れて歩いてくれたらよかったのに。  性行為がなくても子供が作れるこの世の中で、体をつなげる行為がいつまでも廃れない理由を、僕は漠然と理解した。  一つになる瞬間の喜びを、僕はずっと忘れないだろう。 「愚かだ、馬鹿だとさんざん言ってはみたけれど、これだけは伝えなくちゃならない」  飽きることなく口づけをして、僕はミナイを強く抱きしめた。 「僕の所に還ってきてくれてありがとう、ミナイ」  同じように抱き返してくれる手を、もう二度と離さない。永遠に生きるというなら、永遠に側にいよう。  僕の全ては、君のものだ。

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