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雨の日の冬真 #12 side Y
夜になり、外では白いものがちらちらと舞い始めた。
「雪···」
冬真がぽつりと言った。
「おーっ!いつの間に!やっぱり降ってきたかぁ。今日は寒かったもんなぁ。冬真、大丈夫?寒くない?」
窓辺に立つ冬真を抱き上げ、ソファーに座る。もちろん、冬真は俺の腿の上。
「積もる?」
冬真はゆらゆらと揺れる瞳で俺を見つめながら言う。
「どうかなぁ···場合によっちゃ店も臨時休業かな。」
「······ねぇ、葉祐···」
「うん?」
「明日···」
「誰も来なくて良い、だろ?」
冬真は小さく頷いた。
「あのさ、冬真?本当のところはどう思ってる?誰かがこの家に来てくれること。」
冬真の瞳は更に揺らぐ。そして、観念するかの様に小さく息を吐き、ゆっくり瞳を閉じた。
「あんなことがあって···誰かがいてくれるとホッとする···うれしい。けれど···」
「けれど?」
「申し訳ないとも思う。心苦しい···」
「そっか。でも、意外とそうでもないと俺は思うよ。」
「どうして?」
「冬真を独占出来るじゃない?公にさ。自分では全然分かってないみたいだけどさ、冬真って大人気なんだせ?みんな冬真に会いたいし、話したいって思ってる。」
「そんなこと···」
「それがあるんだな。和臣君なんて特にだな。毎日連絡くれるけど、うちに来てくれた時は、声が楽しそうだもん。」
「和くん···仕事もあるのに···」
「でも、助かってるって。店で出す料理、体調が良いとき、作るの手伝っているだろう?」
「うん。」
「それが楽しいって。新メニューのアイデアもたくさんもらって、本当にありがたいって。それから、唐揚げのレシピも教えたんだろう?あれも今じゃ、店の売り上げのトップを争うってさ。」
「あんなの···ただの···」
「家庭料理?店で出すモノじゃない?」
「うん。」
「それが良いんだよ。和臣君の店はバーだけど、料理目当ての人もいるし、公にはしてないけど、その日の料理、適当に見繕って弁当にしてるらしいよ。一人暮らしの人向けにさ。そういう人には家庭料理って嬉しいんじゃない?」
「···そう···だけど···」
「とにかく和臣くんはさ、ここを実家だと思ってくれている。冬真のことも父親とは言わないけど、家族同等の存在だと思ってる。もちろん、俺のこともね。それなのに冬真が遠慮しちゃったら、和臣君だって甘えられないだろう?和臣君に家族は俺達しかいないんだからさ。」
それまで蒼白かった冬真の顔に、少しだけ血色が戻った。チャイムが鳴った。冬真と二人、顔を見合わせる。この時間にこの家を訪ねる人はほとんどいない。訪ねて来るとしたら、何か問題を抱えて帰宅した真祐、もしくは、それに対する何か作戦を練って戻って来た冬葉。どちらにしても、あまり良いことではないことが多い。二人で玄関に向かった。背後に冬真を残し、サンダルを履いて鍵を開けると、そこには少し雪にまみれた和臣君が立っていた。
「こんばんは。」
「和臣君!どうした?何かあったのか?」
洋服に付いた雪を払いながら和臣君は答える。
「雪が降ってきたので、このまま降り続いて積もったら、明日、こちらへ来るの難しいかなと思いまして。大変恐縮ですが、今日、こちらに泊めて頂けませんか?一応、寝袋も持参してきました。」
遠慮がちに笑う和臣君に『もちろん』と言いかけた時、背後にいた冬真が靴も履かず玄関に飛び降り、そのまま和臣君を抱きしめた。
「冬真さん?どうしました?これでは冬真さんが濡れてしまいます。風邪を引いたら大変です。」
冬真は何も応えず、今度は両手で和臣君の頬を撫でる。
「おかえり···和くん···おかえり。冷たいね···和くんこそ風邪引いちゃう···すぐにお風呂沸かすからね···」
和臣君は驚いて、それから、少しはにかんで言った。
「ありがとう。それから······ただいま。」
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