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20years after #2 side S ~Shinsuke Satonaka~

<筆者より·このお話を読まれます前に> このお話は私の拙作「Evergreen」の最終話、「20years after #1」の続きになっております。大変恐縮ですが、「Evergreen」を一読されてからお読み頂ければと存じます。 *********************** 授賞式前の会場は、人の動きが目まぐるしい。 「じゃあ、里中先生、本番もこんな感じでお願いします。」 「先生って...」 「いやいや、こんな権威のある文学賞取っておいて、もう本は書かないなんて有り得ないですから。」 「でも、僕まだ高校生ですし...春から大学生ってこと以外は何も決まってませんから...」 「またまた冗談キツイ!とにかく、本番よろしくお願いしますね。」 式場担当の編集者は、ヒラヒラと手を振ると慌ただしく別の場所へ移動して行った。僕はため息を一つつき、授賞式会場を後にした。 「よっ!」 会場から出ると、一人の男性に声を掛られた。 「ああ。航兄さん。いやいや、垣内先生。こんにちは。父がいつもお世話になりまして...」 「おいおい!生意気にも俺をからかうのか?」 「そんなつもりはないけど、だって、裏のじいちゃんちから学校に通っていた航兄さんも今や立派なN大病院の先生だし、お父さんの主治医だし。」 「海野のおじさんとおばさんは元気?」 「うん。二人とも相変わらず。兄さん、今日はありがとう。来てくれて。」 「いや、ちょうど東京で学会があったからね。気にするようなことじゃないさ。」 「にしても、まだ早いよ。時間知らなかった?」 「もちろん知ってるさ。冬真が体調崩してるって連絡もらってね。」 「俊介さん?」 「ああ。」 「さすがだね。いつでも先手必勝!頭が上がらないよ。」 「あの人も、ずっとお前の両親に寄り添って生きてるからな。」 「僕にとってはもう三人目の父親だよ。小さい頃は、冬真と俊介さんと三人で過ごす時間が長かったし、母親がいないからって言われない様に礼儀やマナー、所作なんかは厳しくしつけられたけど、今では感謝してる。そういう、生きていく上で必要な作法を知らなくて困ったことなんてないから。」 「俺も。高校受かってさ、海野のおじさんちから学校通うことになった時、海野家で粗相が無いようにって、厳しくしつけられた。でも、俺もお前と一緒でさ、おかげで困ることなかった。」 「でも、あの俊介さんも冬葉(ふゆは)には手こずってるよ。」 「冬葉に?何で?」 「冬葉は冬真の遺伝子引き継いでるでしょう?純真無垢の素直な天然だからね。その上『何で君』だし。すぐ『何で?』『どうして?』で切り返す。」 「更に葉祐が甘やかす。」 「うん。でも、葉祐の気持ちも分かるんだ...僕。葉祐は子供の頃から冬真を知っているから、瓜二つな冬葉と冬真がどうしても重なるんだよ。冬真が光彦さんから譲り受けてしまった体の制約が、幸運なことに冬葉にはない。自由に駆け回ったり、泳いだり、幼稚園で楽しく過ごしたりしている冬葉を見て、葉祐はとにかく、自由にのびのびと育てたいって思うんだろうね。」 「だな。で、冬真の様子は?」 「熱は微熱ぐらいになったし、声も言葉もスムーズに出ているから快方に向かってると思う。さっき、コンビニのおむすびを半分食べたよ。」 「そっか。ああ、そう言えば...これ...」 航兄さんは封筒を差し出した。 「何?これ?」 「お前の生物学上の母親から。受賞のお祝いだってさ。」 「怖いな。何だか裏がありそう。」 「あははは。さすがだな。印税入ったら倍にして返せってさ。」 「やっぱり...」 「そう言うなよ。お前がここにいるのもあの人のおかげなんだぞ。お前の親父達に子供を持つことを後押ししたのはあの人なんだ。卵子と母体の提供、なかなか出来ないぜ。しかも2回もさ。」 「うん。そうだね。感謝はしてる。でも、さやかさんのことだから、案外結婚はしたくないけど、子供は産んでみたかったのかも。」 「かもな。」 「さやかさん...元気?」 「ああ、相変わらず、いや、年々パワーアップしてるな。去年、研究室の副所長になったんだ。こきは使われるし、メシは奢らせられるし、こっちは散々な目に遭ってるよ。」 「ごめんなさい。それでも独身で恋人も作らず、ずっと一人だし、弱音を吐けるところなんてないだろうから...さやかさんのことよろしくお願いします。」 「ああ。それよりさ、お前...大丈夫か?」 「何が?」 「お前見てると良い子過ぎるっーか、大人すぎるっーか...とにかく物分かりが良過ぎて心配になるんだよ。せめて俺と泉の前だけでも、子供のままでいて良いんだぞ!」 「そっか。じゃあ...子供らしいお願いしても良い?」 「おうっ。言ってみな。」 「実はお腹がすいてるんだ。具合の悪い冬真の横でバクバク食べるの気が引けちゃって...葉祐と俊介さんは冬葉連れて遊園地行っちゃっていないし...」 「何だよ...冬真は俺が見ていてやるから、これでメシ食ってこい!」 航兄さんは財布から五千円札を取り出し、僕に手渡した。 「おっ、臨時収入!せっかくだからホテルのランチ食べちゃおうかな。」 「何でも良いから好きなもん食ってこい!」 「すみません。親子してこき使ったり、ご飯奢らせたり。」 「バーカ!」 兄さんは僕の頭を小突いた。 兄さんに部屋のカードキーを渡し、頭を下げると僕はホテルを出て、外へと歩き出す。 一番近くのファストフード店目指して。

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