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秘め事 #1 side N ~Naoki Sugano~

♪Are you going ~ 幼稚園からずっと一緒の腐れ縁のそいつは、苦しいことがあると屋上に上がって、穏やかに時が流れる街並みを見詰めながら、少し物悲しいメロディのその歌を歌う。性格も容姿も全然違うけど、似たような境遇で育ったこともあって、そいつとはウマがあった。 「おーい!里中!」 「菅野(すがの)...」 「昼メシ食ったか?」 「うん。まあ。」 こいつがこういう曖昧な返事をする時は、その返事とは逆を意味することが多い。さっき購買部で買ったばかりのビニール袋を差し出す。 「コロッケパンと牛乳しかねぇぞ。」 「ありがとう。代金払うよ。」 「別にいいよ。お前の本の印税で、もっと良いもので返してもらうからさっ。なぁ、今日の帰りドーナツでも食ってくか?」 「本当に好きだね...ドーナツ。ごめん...今日は幼稚園に行かなくちゃなんだ...」 「冬葉の迎えか?」 「うん。」 「美人な方の親父さん、具合悪いのか?」 里中は首を縦に振った。 「今度は長引きそうなんだ。」 長引きそう...それは、調子が悪いのは体ではなく、心の調子が悪いことを意味すると、長い付き合いから俺は知っている。美人の方の親父さんはとても繊細な人で、心の調子が悪くなることが度々あった。そうなると、美人の方から目を離すことが出来なくなって、イケメンの方の親父さんの負担が大きくなるのだと、随分前に聞いたことがある。こいつは家族想いだから余計な気を回して、それだけでもう心苦しいのかもしれない。 「なぁ?明日、日曜だしさ、俺...今日お前んちに泊まりに行っても良い?何か手伝ってやるよ!」 「えっ?」 「まぁ、冬葉の遊び相手ぐらいにはなれるよ。料理もそこそこ出来るし。」 「でも...」 「お前とは幼稚園からずっと一緒だったけど、卒業したらそうそう会えなくなるんだぜ?俺達。母ちゃん二人で父ちゃんがいない俺と、父ちゃん二人で母ちゃんがいないお前とで、今までだって、どちらかがツラい時、どちらかが寄り添って来た。ここへ来て遠慮するな。」 「ありがとう...実は、葉祐と冬葉をどうやって引き離すか考えていたんだ。冬真のことが心配で、冬葉は葉祐のそばを離れないだろうし...」 「じゃあ放課後、俺、一回家に戻って着替え取ってくる。お前は幼稚園へ行って冬葉をピックアップ。で、駅前のスーパーで合流。お前はその前におじさんに連絡しておいて。俺が行くことを伝えて、買って来てほしいもの聞いておいて。で、合流したスーパーで買い物!」 「すごいね...相変わらず合理的でスピーディー。」 「うん。うちの母ちゃん...あっ、男前の方ね、そういうのスゲーうるさいんだよ。『時は金なり。お前は無駄な動きが多い!無駄に動いた分、小遣い減らす』ってさ。こっちは死活問題だっつーの。」 「お母さん達、寂しくなるね。3月から一人暮らしだもんね...」 「いや、意外に嬉しそうだよ。やっと二人だけの時間が持てるって。こっちも、それが目的だったりするから…」 「もし、そういう状況が来たら、うちもそうかもしれないな。」 「いや、お前んちは違うだろ?」 「葉祐は冬真のこと関しては、息子の僕も呆れるぐらい独占欲丸出しでさ。それを見た冬葉ヤキモチ焼くし...結構ハードな三角関係だよ。」 「で、お前は美人の親父さんが放っておけないんだろ?」 「......」 「放っておけないから地元の国立大なんだろ?東京の大学全然狙えるし、推薦だって全部蹴っちゃうし。」 「...何でもお見通しなんだね。」 「まあね。」 「守ってやらなくちゃいけない人なんだよ...冬真は。」 「俺からすれば、お前だって守ってやらなくちゃいけない人だよ?」 「えっ?」 「さあて、教室帰るかな。それ、絶対食えよ!じゃあ、後で。」 ずっと心に秘めていた言葉が、勢い余って思わず出てしまった。俺はそれを悟られないよう、ひらひらと手を振りながら歩き出す。一度も振り返ることもなく。

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