15 / 15

雨のち晴れ

いつからだろう、雨の日が嫌いになったのは。 小学生の頃は、傘とか長靴とか、好きだった気がする。 「・・・また雨かよ」 玄関を出て傘をさす。 学校は嫌いじゃないのに、雨だと行きたくなくなる。 あーやだやだ。 梅雨って最悪だ。 なんでこんな季節があるんだろう。 「はぁー・・・」 すげー憂鬱。 やる気出ない。 制服のズボンの裾が少しずつ濡れてイライラする。 「はぁー・・・」 学校に着いてからも、じめじめと湿気っぽい教室の空気が鬱陶しい。 あー、早く梅雨明けてくれ。 「(じゅん)、ため息ばっかついて、幸せ逃げるよ?」 「今は逃げる幸せもねーよ」 「あはは、ネガティブ~」 こんな天気なのに、からっと晴れた日みたいに笑う(たくみ)。 そういやこいつ、晴れ男だったな。 「なあ匠、雨やまして?」 「え?俺に晴れごいしろって?高くつくよ~」 そう言いながら変な動きをし始める匠。 何だその動き・・・。 「潤ちゃんの機嫌が良くなりますよ~にっ!えいっ!」 「俺の機嫌じゃなくて天気をなんとかしてくれよ」 「したよ?」 「は?」 匠が指差す窓の外を見ると、あんなにざーざー降ってた雨が止んでいた。 ・・・え、まじ? 晴れごいって、やればできるもんなの? 「・・・すげぇ」 「見直した?」 「うん」 まだどんよりと曇ってはいるが、雨は止んでいる。 それだけで俺の心はだいぶ軽くなった。 「匠、俺お前なしじゃ生きて行けない・・・」 「わお、それってプロポーズ?」 「ちげーよ」 何だよプロポーズって。 こいつ、ほんと馬鹿だな。 「なんだよ~、潤のために雨やますとかすげ~事やってのけたのに、愛の言葉もないわけ?」 「ないない。でも感謝はする。そして明日も頼むな」 「潤、何でそんな雨嫌いなの?梅雨なんだから我慢しなさいよ」 嫌いなもんは嫌いなんだから仕方ないだろ。 我慢する気もない。 「我慢できない。明日もして」 「あ、何かそのセリフ・・・エロい」 「はあ?」 こいつ、馬鹿なだけじゃなく、なんかずれてんだよな。 俺が言った言葉のどこがエロいんだ。 「潤ちゃん、明日も晴れごいしてあげる代わり、ちょっと首傾げながら言ってみ?シテって」 「はぁ?・・・して?」 言われた通り少し首を傾げて「して」と言ってやった。 「まじやべ~、かわい~」 「はあ?て、おいこら、抱き付くなっ」 こいつ、どおやら変な方向にずれてるらしい。 でも、大嫌いな雨を止ませてしまうすげーやつだ。 あまり無下にはできない。 「なあ、なんか分かんないけど言ったんだから明日もしろよ、晴れごい」 「はいはい。潤ちゃんのためなら毎日してあげますよ」 「お前、梅雨には欠かせないアイテムだな」 「アイテムじゃなくて人でしょ・・・」 がっかりしたように項垂れる匠。 確かに、アイテム呼ばわりは悪かったかな。 「梅雨には欠かせない人です、匠様」 「ぉう?いきなり様付け?悪い気はしないっ」 ぱあっと笑顔になる匠。 こいつ面白い。 「匠、お前って犬みてぇ」 「潤ちゃん・・・今度は犬扱い?まぁ、潤ちゃんだから許すけどね」 「俺のための晴れごい犬」 「・・・まぁ、もぉ、それでもいいですよ。でも潤ちゃんのための、だからね」 そんな事を言いながら窓の外を見ると、雲の切れ間から日が射していた。 匠の晴れごい、すげー威力だ。 「匠、これからも俺のための晴れごい犬でいてくれよ」 「はいはい、潤様の仰せの通りに」 end

ともだちにシェアしよう!