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小説より奇なり
仕事が煮詰まったので近所を散歩していたら、ちょっと、いや、かなり珍しいものを拾った。
ぱっと見、捨て猫のようだったが、よくよく見れば人間。
・・・いや、ぱっと見も人間か。
段ボールの中で丸くなって眠る少年だった。
高校生くらいだろうか。
開かれた段ボールの蓋には、律儀にも「拾ってください」の文字。
「はは、こりゃ面白い」
段ボールから抱き上げても彼は目を覚まさなかったので、そのまま自宅へ持ち帰る。
「いったいどういう経緯であんな状態だったんだろうな」
今は俺のベッドで眠る少年の様子を見ながら、取り敢えず放棄していた仕事を再開していると。
「・・・・・・ん・・・ぅぅ・・・」
お、目が覚めたか。
「・・・ぁれ?・・・ここ、は?」
「大丈夫か」
「えっ?」
少し長めの黒髪に、ぱっちりとした大きな目。
その目を更に大きく見開いて俺を見る少年。
「・・・ぁ、もしかして、拾ってくれたん、ですか?」
「ああ、まあ、拾ったな」
「じゃ、じゃあ、飼ってくれますかっ?」
「・・・・・・・・・飼う?」
そこまで考えていなかったが、そうか、拾ったのだから責任を持って飼うべきか。
・・・いや、猫じゃあるまいし。
「君、帰る家があるだろう」
「ありません」
「家族が心配するぞ」
「いません」
「・・・・・・・・・」
さらっと言っているが、嘘をついているようにも見えない。
本当に家も家族もないのだろうか。
「どういう事だ?」
「もともと母子家庭で、親戚もいなくて、母も高校生の時に亡くなりました。アルバイトして何とか生活してたんですけど、お店が潰れちゃって・・・家賃が払えなくなってアパート追い出されました」
「・・・それで?」
「残った全財産でお酒飲んで、どおしよおかと歩いてたら、捨て猫が拾われてくのを見て、じゃあ俺も、と」
「酔った勢いで捨て猫のお下がり段ボールに潜り込んだってわけか」
少年がこくり、と頷く。
・・・おい、酒を飲んだだと?
「君、いくつ?」
「ハタチです」
・・・見えない。
いや、そうじゃなくて。
「あんな所で無防備に寝ていたら危ないだろう。酔っていたとはいえ、ちゃんと考えて行動しなさい」
「でも、拾ってもらえました」
嬉しそうに笑う少年、もとい青年。
・・・これは、俺が飼う事が決定なのか?
今更だが、もとの場所に戻す訳には・・・。
「ちゃんと家の事します。料理も洗濯も掃除も。だから、飼ってもらえませんか?」
さっきまでの笑顔とはうって代わり、不安そうに上目遣いで見てくる。
・・・だめだ、もとの場所に戻して変なやつにでも拾われたら・・・・・・。
「・・・わかった、面倒見てやる」
「ほ、ほんとですかっ!?良かったぁ」
再びの笑顔。
・・・とてもハタチには見えないな。
「名前は?」
「明 です。橘 明」
「メイか。俺は都筑 楓 だ」
「・・・都筑・・・楓さん・・・・・・って、あの小説家の?」
「あの小説家かどうかは知らんが、仕事は小説家だ」
「・・・もっとおじさんだと思ってました」
「38だ」
「見えないですね」
にこにこと笑うメイ。
君に言われたくないな。
「楓さんに拾ってもらえて良かったです。家事は任せてくださいね!」
「・・・ああ」
こうして、家なき子を拾って面倒見ることになったのだが、まさか恋愛に発展するとは、この時の俺は考えもしなかった。
正に、事実は小説より奇なり、だ。
end
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