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悪魔からのプロポーズ
恋人が死んだ。
交通事故で、即死だったって。
お通夜もお葬式も参列したけど、全く実感がわかない。
いつもみたいにヘラヘラ笑いながら、俺のとこに来てくれるんじゃないかって、思ってる。
だから、涙が出ないんだ。
「晴之 ・・・」
2人でよく来た公園。
ブランコに座って恋人の名前を呟く。
何度も呼べば、なんだよって、返事してくれる気がして・・・。
「晴之・・・晴之・・・・・・ばか、はるゆき・・・・・・・・・っ」
何で死んじゃったんだよ。
俺の事、絶対独りぼっちにしないって言ったじゃん。
俺、お前がいなくて、どうすればいいんだよ。
「どうせ死ぬなら、俺も道連れにしてくれれば良かったのに」
本気でそう思ってる。
車通りの多い道とか行くと、ふらっと車道に歩き出したい衝動にかられるんだ。
でも、同じとこに逝けなかったらどうしようって、思い止まる。
「一緒にいたいよ・・・晴之・・・・・・」
「うん、ずっと一緒にいよう、渚 」
「───っ!?」
なに、今の・・・幻聴?
深夜の真っ暗な公園をきょろきょろ見回してみても当然、声の主は見当たらない。
あんなにはっきり聞こえたのに、幻聴なんだ・・・。
でも、久しぶりに声が聞けた気がして嬉し・・・。
「渚、こっちだよ」
「ぇっ?・・・ぇっ?」
また聞こえた、晴之の声。
幻聴でもいい、もっと聞きたい。
姿が、見たい。
「は・・・る、ゆき・・・?」
「なーぎ、こっちだって。もーちょっと上」
上?
ブランコに座ったまま夜空を見上げると、そこには逢いたかった人がいた。
「ぁ・・・あ、はるゆきっ!?」
「渚、ごめんな、来るのが遅くなって」
晴之は宙に浮いていた。
背中には大きな黒い翼。
・・・・・・・・・え、どうなってんの?
「俺さ、悪魔と契約して、悪魔になったんだ」
「・・・は?」
悪魔に、なった?
え、幽霊じゃなくて?
「死ぬ瞬間にさ、神様は助けてなんてくんねーのな。だから、人員不足だっつー悪魔と契約して、悪魔にしてもらったんだ」
「な、何で、悪魔になんか・・・?」
「お前を独りぼっちにしないって約束したろ?」
「・・・ぅ、うん」
ふわりと降りてきた晴之は、冷たい手で俺の頬に触れた。
体温はずっと低いけど、この触り方は晴之だ。
俺はその手にすがり付く。
「はる・・・はるゆきぃ・・・っ」
「ごめんな、びっくりしたろ?もう独りにしないから」
「うん・・・ぅん・・・っ」
ずっと流れなかった涙がぼろぼろ溢れてきた。
悪魔でも何でもいい。
晴之がいてくれる。
それだけでいい。
「悪魔の仕事でさ、地獄逝きの魂を集めてアッチに連れて逝くんだけど、渚が学校行ってるうちに片付けるからさ。俺、渚の部屋に住んでいい?」
「ぃいよ」
「やった!いちゃいちゃしようなー」
「・・・いちゃいちゃって・・・・・・」
こうして、人間の俺と、元人間で悪魔になった晴之との同棲生活が始まったわけで。
晴之は死ぬ前と何も変わらない。
俺以外には見えないってだけ。
いや、以前より距離が近くなったかも。
俺が学校行って、晴之が悪魔の仕事してる時以外はずっと一緒にいるし。
「なーぎ、ちゅーしよ」
「・・・もぉ、今日それ何回目だよ」
「いーじゃん、しよ?」
「・・・ぃ、いいけど。・・・んっ、ふ・・・」
周りに見えてないからって、いつでもどこでもべったりだ。
まあ、晴之の体温が低いから暑苦しくはないけど・・・。
「ねー、なぎー」
「ん?」
「いつかさ、渚の魂、俺にちょうだい?」
「は?・・・それって、俺どうなんの?」
「俺と同じ悪魔にする。で、ずーっと一緒にいる」
「ふぅん・・・いいけど」
「まじで!?やった!」
それって、ちょっと、いや、かなり変わった、プロポーズ?
・・・いつかって、いつだろ?
「今じゃなくていいの?」
「うん。もうちょっとさ、渚には人間として楽しい生活を送ってて欲しいんだよ。ま、悪魔としての生活も悪くはないけどさ」
「ふぅん」
いつか、俺が人間に飽きたら、お前が魂を奪って。
俺を一緒に連れて逝ってね。
end
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