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第一章(18)

 その時、宣親のデスクの上の内線電話が鳴り響いた。ソファを立ち、受話器を取った宣親が、 「すまないが急な来客が入った。彩都に借りた備品は秘書から受け取ってもらえるか」  稜弥は頷いてソファから立ち上がろうとしたが、一つだけ、どうしても宣親に確かめたいことを口にした。 「東條先生、もしかして七瀬博士もオメガではないですか? そして貴方こそアルファなのでは?」  その問いかけに宣親はしばらく口を閉じる。そして、じっと稜弥を見つめてその問いの意を図ろうとしたあとにやっと重たげに言葉を発した。 「いや、彩都も俺もベータだ。ただ、彩都は桜斑病ウイルスのキャリアであり、サバイバーだ」 *****  薄暗い部屋に辿り着き、稜弥は疲れたようにベッドに座り込んだ。ふぅ、と聞く人のいないため息を着いて、ふと、机に放り投げたスマートフォンの一つが振るえていることに気がつく。ロックを解除し見馴れない発信先に警戒しつつ、スマートフォンを耳に押しあてた。 「――はい」 『タカヤ? わたしよ、セシル』  知っている声に少しほっとする。 『セシル、これは知らない番号だけれどラフィンのしわざ?』 『そうよ、普通に連絡したら誰に聞かれているかわからないでしょ。ラフィンいわく、この回線はインドとコリアを経由しているらしいけど、わたしはそこら辺はまったく理解できないの。それよりタカヤ、ドクター東條には会えた?』 『ああ、思ったよりも早くね。でも話を聞いてもらえる雰囲気じゃないな。どうも奴らが先に何らかの接触をしていて、彼はそれを異常に警戒している』 『そう、こちらもタカヤの読み通りだったわ。ジョンが消えてフェイクデータが持ち出された』  怪しいと思っていた研究員が偽のデータを予想通りに持ち出して罠にかかったらしい。 『まったく浅はかよね。どう見たって、僕はスパイです、って顔に描いてあったもの。やはり、ゼロ世代アルファだとそこら辺のベータと変わらないわ』

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