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第一章(17)

 ふう、と疲れたように息をついた宣親がソファから立ち上がると、内線で秘書を呼び出した。彼女は今度はアイスコーヒーの入ったグラスを持ってきてくれて、また執務室は宣親と稜弥の二人になった。 「俺は政府の『新世代性(しんせだいせい)ワーキンググループ』のメンバーの一人でね。グループは、アルファやオメガの第二性研究や社会への存在周知、そして国民の第二性検査義務化計画などの推進を目的とした部会だ。最終目標は欧米と同等に彼らの権利を制度化すること。彼らはまだ世間には姿を隠しているが、この東條大学は学生や職員にもアルファやオメガを受け入れている。そこで本題だ」  やっと宣親が本来したかった話を稜弥に切り出すようだ。稜弥は少しソファの上で背筋を伸ばした。 「君が今日から仕事をする彩都の研究室のある建物だが、実は学内案内図にはある意図があって載せていない。あの建物の一階は研究室と彩都の自室があるんだが」 「七瀬博士はあそこに住んでいるんですか」 「そうだ。そしてあの建物に住んでいるのは彩都だけじゃない。他に三名、二階に住まわせている。三名とも学生で女性のオメガだ」  稜弥は宣親が第二性証明書の提示を求めた理由を理解した。オメガがあの建物にいるのならば、アルファの男は近づけられない。キャンパスの一番外れにある建物だ。もしも発情抑制剤の効きが悪く、アルファを誘うフェロモンを撒き散らしたとしても、あんな山奥ならば周囲に気づかれないだろう。 「学内でもあの研究棟の存在を知っているのは、農学部の職員と彩都の研究を手伝う一部の学生だけだ。それもアルファだと疑いのある者は近づけさせていない。だから君がアルファなら、彩都がなんと言おうと今回のポスドクの話は無かったことにしようと考えていたんだ」 「一応、俺への疑いは晴れた、と?」 「……第二性についてはな。だが正直、俺はまだ君を完全に受け入れられない。なんせ紹介の経緯がトクシゲ化学薬品の奴からだからな」 「どうして島田さんをそんなに警戒するんです?」

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