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エピローグ(4)

「紗季はいよいよこの秋にアメリカに行ってしまうんだね」 「今回はアルファアカデミーへの体験入学だから三ヶ月で帰ってくるよ」 「まだ七つなのに。第二性検査も受けていないのに、こんなに早く進む道を決めてしまってもいいのかな……」 「紗季はどう見てもアルファだよ。容姿はお前に似ているのに性格は稜弥にそっくりだ。でも、思い込んだら頑固なところは、お前にもらったんだな」  快活な宣親の笑い声に彩都もつられる。でも、その宣親の笑った顔のなかに、紗季が早く独り立ちしてしまうことへの一抹の淋しさが滲んでいるのを、彩都は読み取っていた。  車を降り、色とりどりの花が迎えてくれる前庭から屋敷に入ると、稜弥はまっすぐにダイニングへと向かった。しかしそこに彩都の姿はない。続くキッチンを覗いてみたが、通いの家政婦が腕によりをかけたビーフシチューの鍋が置いてあるだけだった。 (また、裏庭にいるのか)  稜弥はダイニングの椅子の背凭れにかかっていたブランケットを手に持って、今度は裏庭へと向かう。予想した通り、淡いピンクの花をつけた樹の下のテーブルに、彩都はこちらに背を向けて座っていた。  コク、と小さく頭が動いている。きっと彩都は眠っているのだろう。足音を立てないように近寄ると、稜弥の気配を察知したメルが尻尾を振りながら起きあがった。  吠えそうになるメルに、口元に人差し指をたてて静かにするように命じる。メルはウズウズしながらも、稜弥の命令通りに彩都の足元に大人しく座った。  日が落ちて花冷えするなか、彩都は薄いシャツ一枚だけをまとっていた。そのシャツから覗く細い首すじに稜弥は視線を落とす。  俯いて微睡んでいる彩都の白いうなじには、はっきりとしたひとつの噛み痕が浮かんでいる。それは稜弥が与え、彩都が受け入れた、二人の魂の繋がりの(あかし)

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