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エピローグ(3)

 宣親の不満に彩都は声をあげて笑った。 「でも女の子なんだから、服のこだわりもあると思う。紗季は振袖をとてもよろこんでいたけれど、今度はちゃんと相談しないと駄目だよ」  そうだな、と言って宣親はじっと彩都の顔を見つめた。そして安堵の表情を浮かべて、 「今日は随分顔色がいいな」 「うん、この時期が一番体調が良いよ。桜斑もいつもよりも薄いし、右足の痺れも気にならない」 「そうか。やはり、あの桜が咲く今が一番、ウイルスの働きが落ちるんだな。どうしてそうなるのかはわからないが、早く原因を究明してお前をその島から出られるようにしてやるから」  うん、と返事をして、 「紗季も同じことを言ってくれたよ」 「ああ、紗季の夢だからな。アルファアカデミーを首席で卒業して、医者になってお前の病気を治すんだ、って」  紗季を産んだあと、体内の桜斑病ウイルスが発症して彩都は生死の境をさ迷った。ワクチンがまったく効かず、手の施しようが無いと宣親でさえ諦めかけたところで、稜弥がひとつの提案をした。  それはあの桜のある瀬戸内の島へ彩都を連れていくというものだった。確かに島に滞在中は彩都の桜斑は薄くなり、ウイルスの活性が弱まっていたように思われた。稜弥の提案を半信半疑、しかし藁にもすがる想いで宣親は受け入れた。  結果、青々と葉を繁らせたエドヒガンの下へ彩都を連れていくと、不思議なことにウイルスの活動が鈍り、彩都は一命を取り留めた。しかしそれは、この桜の傍でしか彩都が生きられないということでもあった。  宣親はこの島を政府から買い取り、東條大学農学部の彩都の研究室をここに移転させた。そして東條製薬とベイン財団の出資で第二性用の新薬研究開発センターと製薬プラントを作った。センターにはオメガの保護施設もあり、第二性研究の最先端施設として国内外からも優秀な人材を迎え入れている。今、稜弥は研究開発センターの所長として忙しい日々を送っている。

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