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エピローグ(6)

 エドヒガン桜へと続く道すがら、 「二階堂官房長官から、彩都を説得してくれって連絡があったよ。また紫綬褒章の授与を断ったんだって?」 「……僕は自分の好きなことをしているだけなんだ。『世界を飢餓から救った英雄』とか、『絶滅した花を蘇らせた桜守』だなんておこがましいよ。それに、僕は桜を守っているんじゃない。僕のほうが桜に守られているんだから」  やがて繁る木々の間から、薄紅の光を放つ大きな桜の木の下へと二人は辿り着いた。 「今が花の盛りだ」  稜弥に抱えられて桜を見上げる彩都は、しばらく黙ったあと稜弥に、桜の木の下に降ろして欲しいと願い出た。稜弥は彩都を抱えたままで、桜の幹を背にして座り込む。背中から優しく彩都を胸に納めようとした稜弥だったが、彩都はなぜか体の向きを変えて、稜弥の足に跨がった。  少し見おろす形になった稜弥の肩に手を添えて、彩都が軽く唇を重ねてくる。そのキスが、小さな水音を響かせるようになるのに時間はかからなかった。 「ん……、はっ……」  肩にかけていたブランケットを滑り落として、彩都は稜弥のキスに応えながらシャツのボタンを自ら外していく。それに気づいた稜弥が唇を離すと、二人の間を繋いだ銀色の糸が珠になって途切れた。  シャツのボタンを外し終わった彩都が今度はベルトに手をかけた。彩都から匂い立つ自分を誘う香りに、稜弥も上着を脱いでネクタイをほどいた。 「どうしたの? 発情期はまだ先なのに」  目の縁を紅く染めた彩都が艶やかな笑みを漏らした。その表情に稜弥はゾクリと背筋を撫でられる。 「紗季がね、弟か妹が欲しいんだって」  先ほどの通話で紗季がお願いしてきたのは「兄弟が欲しい」ということ。自分がアメリカに行ってしまうと、宣親が淋しいだろうという、子供らしい気づかいを稜弥に伝えると、 「本当に紗季はいつも突拍子も無いことを言い出すな。……でも家族が増えるのは賑やかでいい。俺は彩都にそっくりな男の子がいいよ」

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