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「おい、犬ころ。犬の分際で俺のものに手を出すとはいい度胸だな。詫びはそのきれいな毛皮で許してやる」
「……俺は基本的に動物には危害を与えない主義だが、ソウシに手を出したとなれば話は別だ」
額に青筋を立てたアーロンと静かな怒りを露わにするドゥーガルドが、それぞれ剣の柄を握った。
「グルルルル……ッ!」
それでもクロは怯むことなく、鋭い牙を剥き出しにして威嚇の姿勢を崩さない。
「ちょ、ちょっと待て! お前ら勘違いしてるぞ! クロは俺を助けてくれて――」
「うるせぇ! この淫乱荷物持ち! 俺らが必死で探してる時になに獣姦に興じてんだ!」
「興じてないわ!」
人を特殊な性癖の持ち主のように言うな!
「……ソウシ、下がっていろ。そのケダモノを駆除するのに巻き込まれたら危ない」
「いや、お前が人のことをケダモノ呼ばわりするな!」
自分のことは棚どころか遙か上空に上げるドゥーガルドの目は、しかし本気だ。
「グルルルル……ガウッ!」
唸り声を止めひと吠えすると同時に、クロの足が地面を蹴った。それに反応して、アーロン達も剣を抜いた。
これはやばい……!
クロも体格が大きく鋭い牙や爪を持っているとはいえ、相手は二人で剣を持っている。
ケガどころではすまないかもしれない。
「……ッ、やめろ!」
洞穴に自分の声がこだまするくらい大きな声で叫ぶと、双方がピタリ、と動きを止めた。
その隙にクロを守るように両手を広げてアーロン達の前に立ちはだかった。
「クロは命の恩人だ! ひどいことしたら許さないからなっ」
キッと睨み付けると、アーロンは「はぁ?」と顔を顰め、ドゥーガルドは目に見えて狼狽えた。
「テメェ……、お前の味方をしてやってるっていうのに随分な物言いじゃねぇか」
「……その獣にソウシは犯されたのだろう?」
「いや、犯されてない!」
確かに全裸で舐められている様子は誤解を生む光景ではあるけれど、それにしても飛躍しすぎだろ!
「とにかく、クロに指一本でも触れたら、あの、えっと、あれだ! もう二度と口をきかないからな!」
正直なところ俺が口をきかないからと言って何の不都合もないだろうが、しかしドゥーガルドには効果てきめんなようで、雷にでも撃たれたかのように、目を見開き固まった。
そして少し迷うような間を置いて、静かに剣を鞘に戻した。
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