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「……お前のくだらない御託はどうでもいい。とにかく全部吐き出せ。この魚はソウシのためだけに獲ってきたものだ。それがよりにもよって貴様の腹に納まるとは許せん。……吐けないなら俺がその腹を切り裂いて出してやる」
ギラリと一層鋭くなったその目は本気だ。
「グロい!」
狂気的な発言にそう突っ込まざるを得なかった。
さっきからなんで楽しい食事の時間にグロい話とか汚い話が飛び交うんだ!?
「ストップストーップ! せっかくのおいしい食事の最中にそんなグロい話すんなよっ。というか吐き出させてどうするんだよ」
まさかそれを俺に食わせる気じゃないだろうなと、若干引き気味に確認する。
「……そんな汚いものソウシに食べさせるわけがない。ただソウシの血肉の一部になるはずだった魚にこめた俺の愛があのクズの体内にあると思うと我慢できなくてな」
「なんか俺の方が吐き出したくなったんだけど……」
あんなししゃものような小魚にそんな重い感情がこめられているとは……。心なしか胃が重くなったような気がする……。
よく愛情は最高のスパイスなんて言うが、過剰な愛情は塩分の取りすぎと一緒で体に毒だということがよく分かった。
「……あと一匹残っているな。最後はソウシが食べてくれ」
目敏く残っている魚を見つけると手に取り、俺に差し出した。
果たして今の話の流れでこの重い感情がこめられた魚を食べられる奴はいるだろうか。
なんかあれだ。付き合っていない他校の女子から手作りお菓子をもらって困っていたクラス一のイケメン、近藤君のことを思い出した。
「マジでこういうの重いわ。絶対食えねぇ」って顔を顰めていた近藤君に、モテない俺は内心「はぁ? 女の子に手作りお菓子もらっておいてなんだその反応は! モテる自慢か? 困ってる風を装ってのモテる自慢か!? ふざけんな! 有り難く頂けよ!」と腹を立てていたが、今なら近藤君の気持ちがよく分かる。
まさかイケメンのモテて困るエピソードに共感する日が来ようとは……。しかも異世界で……。
でも近藤君。お前はいいじゃん、相手が女の子で……。
「……ソウシ? どうした?」
「あっ、いや、なんでもない」
ドゥーガルドに声を掛けられ、ハッとする。
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