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こういう時、本当にチェルノは頼りになる……! ありがとう、チェルノ……!
心の中でチェルノに手を合わせて感謝する。
「まぁ、そうだな……、この獣がお前達の言うことをちゃんと聞くってことが証明できれば入れられなくもないな」
「あ! それならできる! できます!」
門番の言葉に俺はすかさず手を挙げた。
「はぁ? 本当にお前できんのかよ?」
アーロンが半信半疑といった目で俺を胡乱げに見る。
「できるよ! なっ、クロ」
「わふっ」
俺の呼び掛けに頼もしくクロが答えた。
実はみんなには内緒で、俺達は秘密の特訓をしていたのだ。
ついに特訓の成果を見せる日が来たな……!
俺は意気揚々とクロの前に立った。
「それじゃあ、クロ、行くぞ……お手!」
「わふっ」
俺が手の平を差し出すと、クロは大きなもふもふの右手をその上にぽんと置いた。
「おお……っ」
自分より大きい獣が俺のようなちんちくりんの言うことに従っているのが意外らしく、門番たちから嘆声が上がった。
フフフッ、まだこんなの序の口だぜ!
「おかわり!」
「わふっ」
「おお……!」
続いて左手を俺の手に置くと、またもや門番の方から感心しきった声が広がった。
「伏せ!」
「わふっ」
「おおっ!」
俺の言葉に従い地に伏せるクロに、ちらほら拍手すら聞こえてきた。
「あんな大きな獣を従えるなんて……」
「あの獣も賢いようだな」
おっ、これは好感触……!
周囲から聞こえる俺やクロへの称賛の声に俺はすっかり調子に乗っていた。
よし! 最後決めたれ!
「それじゃあ、最後に……ちんちん!」
「わふっ」
クロが前足を上げてふらつきながらも後ろ足だけで体を支える。
体が大きいこともあって一番習得するのが難しい技だったのだが、三日前ようやくマスターしたのだった。
最後に一番難易度の高い技を決めて、得意げになっていたが、周囲になぜかどよめきが広がった。
そのどよめきにはさっきのような称賛は微塵も含まれていなかった。
さっきまでの称賛ムードはどこにいった!?
見ると、仲間であるアーロン達もドン引きの表情をしていた。
「……わ~、ソウシってすごいことするね~」
「チェルノに悪影響を与えたら悪いから今後あんまり近付かないようにね」
「え? え? な、なんで!?」
「お前……マジで引くわ……」
「いや! お前には引かれたくない!」
人間界一のクズと言っても過言でないアーロンに本気で引かれるなんて心外だ!
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