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「……大丈夫だ。このくらいの酒の量、たいしたことはない。それに酒場は酔った輩が多いからな。何かあった時に俺がすぐに守れるよう傍にいないとな」  ギラリと周囲に目を光らせるドゥーガルドに俺は大きく溜め息を吐いた。  ドゥーガルドは俺が酒場でウェイターをすると知るやいなや、開店時から店の一角のテーブルを占拠して働く俺をじっと見つめているのだ。  その上、グラスを空にするとすぐに注文と称して俺を呼び寄せるので面倒なことこの上ない。  嫌みで空のグラスをそのままにしているのだが、もちろんそんな遠回しな嫌みがド直球の言葉すらさらりとかわすドゥーガルドに通じるはずがなかった。 「……客も柄が悪くて心配だが、あの店主も馴れ馴れしいな。さっきもソウシの頭に触っていたし……。店主という権力を振りかざしていやらしいことをされたらすぐに俺に助けを呼ぶんだぞ」 「いや! ゲルダさん、そんな人じゃねぇから! というか奥さんいるからな!」  カウンター席に座る奥さん、ハンナさんを指さしながらあらぬ疑いを全力で否定した。  ハンナさんもウェイトレスなのだが、妊娠しているのでなるべく安静にしてもらっている。  ゲルダさんが奥さんを大好きなのは誰から見ても明らかで、たとえどんな絶世の美女が言い寄っても一蹴するだろうことは容易に想像できる。  そんなゲルダさんが、男の俺に手を出すわけがないし、そもそも俺に手を出すような物好きはドゥーガルドとアーロンくらいのものだ。 「というか、本当にそろそろ酒やめといた方がいいんじゃねぇ? 今は大丈夫でも明日がきついぞ」  何度も呼びつけられて面倒という事もあったが、酒場の店主のゲルダさんすら驚くほどの酒の量と飲む速さに俺は少し心配になり諭すようにして言った。 「……でも注文しないとソウシが俺のところに来てくれない」  拗ねた子どもみたいにドゥーガルドがぼそりと呟いた。  これが子どもなら可愛いが、なにせ相手は自分より大きい男だ。呆れてまた大きな溜め息が出た。 「働いてるんだから当たり前だろ。お前にだけに貼り付いてるわけにはいかないんだよ」 「……そうか、そうだな。じゃあ俺がソウシを雇えばずっと傍にいてく――」 「注文しないなら戻るからな」  目から鱗みたいな顔をしてアホなことを口にするドゥーガルドに俺は背を向けた。  それと同時に、店のベルがカランカラン、と鳴り響いた。 「いらっしゃいませー」  新しい客を迎えるべく扉の方へ向かう。 「三人だ。席は空いてるか」  いかにも金持ちという感じのでっぷりと肥えた男が俺に言った。その両脇に少女と見紛うほど整った顔立ちの美少年を連れていた。  黒髪の美少年達は媚びるように男の腕に絡みついていて、なるほどそういう趣味ですか、と心の内で納得した。  彼らも仕事とはいえこんなおっさんに媚びないといけないとは大変だな、と心底同情する。  もちろんそんなことはおくびにも出さずに「はい、こちらが空いています」と席へと案内した。

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