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「だから店主には私から話をしておくと言っているだろ」
「いやぁ、でも、人員不足なので……」
「君ぃ、せっかく私が君みたいなのに声を掛けてあげてるんだよ。普段だったら美少年しか相手してあげないけど、君珍しい顔立ちしてるから今夜だけは特別に相手してあげようと思ったのに」
上から目線でネチネチと酒臭い舌を回す男に、俺はぶち切れ寸前だった。
誰かこいつを殺してくれぇぇぇぇ!
苛立ちがもはや殺意に変わりつつあったが、それでもゲルダさんに迷惑をかけるわけにもいかないので精一杯の作り笑いを貼り付ける。
どうにか波風立てずこの場を切り抜けないと考えていると、男の芋虫のように太い指がズボンの上から窄まりに押し込められた。
「……ッ!」
知らずびくりと反応する俺に、男はニタリと笑った。
「おや? 見た目によらず感じやすいようだねぇ。意外と遊んでるのかな? それとも生まれついての淫乱ちゃんなのかなァ?」
至極愉しそうに男が羞恥を煽る言葉を、湿った酒臭い吐息と共に耳に注ぐ。
違う! と叫びたかったが、ぐちぐちと窄まりの中で蠢く感触に思わず漏れ出そうになる甘い声を抑えるので精一杯だった。
「そうだァ、いいこと考えた。どうしてもこのお店を離れられないならここでしちゃおっか? ねぇ、いい考えでしょお?」
「っ、や、やめ、ろって……ン……っ」
「でも君のお尻は嫌がってないみたいだけどなぁ」
下卑た笑みで言いながら男はさらに指をくねらせる。甘い声を漏らす俺を見て、両側の美少年達もクスクスと笑う。
く、くそ……! 誰か助けて……!
目をつむって心の中で助けを求めたその瞬間、
――ガシャン!
俺の横を何かがかすめそのまま男の真後ろの壁にぶつかって四散した。
「ひぃ……ッ!」
男は驚いて情けない悲鳴を漏らしながら俺から手を離した。
散らばる破片やガラスの割れる高い音に、壁に投げつけられたものがグラスだということが分かった。
こんな危ない真似を躊躇うことなくやってのける人物など一人しかいなかった。
「……ソウシに何をしている」
振り向くとドゥーガルドが鬼の形相で扉の近くに立っていた。
殺気がみなぎるその低い声に、男はもちろん俺まで震え上がった。
こちらに近付くドゥーガルドの顔は冗談抜きで、復讐に駆られた殺人鬼のような凄まじい顔をしていた。
ひ……っ! 味方のはずなのにこの場で一番怖い……!
ドゥーガルドは怯える俺など気にも留めず守るように抱き寄せてから、男をギロリと睨みつけ、抜いた剣の切っ先を男の喉に突きつけた。
「ヒィ……!」
「……貴様、ソウシに何をした?」
「あ、いや、べつに、こ、この子が、ひとりでウェイターの仕事を頑張ってるから、その、チップをと思ってね」
鋭い眼光を向けて問い質すドゥーガルドに、男はさっきの上から目線の余裕が嘘のように狼狽えながら見苦しい弁解を連ねた。
「……なるほど」
ドゥーガルドはそう言うと、スッと剣を降ろした。
男は事なきを得たとほっと息を吐いた。
しかし次の瞬間、
――ダンッ!
ドゥーガルドが男の頭を掴んでテーブルへと強く叩き付けた。
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