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「アーロン」 「あ?」 「クロのこと助けようとしてくれてありがとうな! ちょっと見直した!」  正直、アーロンが自分の利益以外のために動いているところなど見たことがない。  しかも今回は自分に何の得もない上に危険な状況だった。にも関わらず、アーロンはクロを助けるため城壁から飛び降りてくれた。  俺はそのことにすごく驚いた。そして見直した。意外といい奴じゃん、と。  アーロンの方を真っ直ぐ見ながら笑顔で礼を言うと、途端にアーロンの顔が赤くなった。 「は、はぁ!? べつにお前のためじゃねぇし! 礼なんか言われる筋合いないし! つーかお前なんかに見直されても少しも嬉しくないし何の得にもならねぇからな! それよりその犬の躾ちゃんとしとけ!」  アーロンは早口で捲し立てると、俺にくるりと背を向けてそのまま門の方へと向かった。  圧倒されて何も言い返せずにいた俺だったが、次第に怒りが込み上げてきた。 「な、なんだよっ。あんな風に言わなくてもいいだろ! クロがこの危機を救ってくれたことには変わりないのに」  礼を言っただけなのに一方的に喚き散らされ俺はムスッとむくれた。 「アーロンは本当に素直じゃないねぇ~」 「いやっ、あれはむしろ素直すぎるだろ!」  だからあんなこっちが礼を言ってるのにあんな心ないことが言えるんだ! あー! 腹立つ! 礼なんか言うんじゃなかった!  礼を言ったことを後悔するほど腹を立てていると、チェルノが肩を竦めた。 「アーロンは本当にこういう損得勘定は全然だめだよね~」  呆れた風に言ってチェルノも門の方へ向かった。  そのチェルノの言葉に、いやむしろあいつは損得勘定くらいしか特技ないだろと首を傾げたが、クロに「わふっ」と呼び掛けられ特に深くは考えなかった。 その後、門番が馬に乗り、城壁の外の森や街道を見て回ったがグーロはいなかったという。  一応の安全も確保されたため、無事に門を開くことができた。 「まいどあり!」  門を出る通行人からグーロ討伐代を徴収するアーロンは上機嫌で、そのにやついた顔は守銭奴そのものだった。  クロを助けに行った時はちょっとは見直したのに……!  もしかするとあれはクロを助けに行ったんじゃなくて、ただいい囮ができてチャンスと思っての行動だったのかもしれない。  そう思うと、無性に腹が立った。  絶対あの報酬からクロの分も貰わないと……!  俺は守銭奴を睨みつけながら、通行人から討伐代を徴収し終えるのを待った。

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