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剣を肩に担いだアーロンが顔を顰めて俺に吐き捨てるようにして言った。
「ア、アーロン……!」
驚きと戸惑いで目を丸くする。
「ど、どうしてここに?」
笛は壊れたから場所は分からないだろうし、トイレにしてもこんな離れたところまで来るはずがない。
「あの根暗ナイトの笛がピーピー鳴ったんだよ」
そう言ってアーロンは俺が持っていた笛の番いを手に持って見せてきた。
「え、でもあの笛壊れたのにどうして……」
「前の笛より性能がいいみたいで片方の笛が壊れるともう片方の笛に持ち主の危険が迫ってることを伝えるんだと」
「なるほど」
確かに貰った時、前の笛より頑丈でしっかりしている印象を受けた。ただ「……ここにソウシと俺の名前を彫って貰った」と嬉しそうに名前が彫られた部分を見せてきたドゥーガルドの言葉に引いてしまって、性能がよくなっていることまで気付かなかった。
「というか、ドゥーガルドはどうしたんだよ?」
持ち主の姿が見当たらずきょろきょろと辺りを見回す。自分で言うのも何だが、あのドゥーガルドが俺のピンチと知って来ないはずがない。
すると、アーロンがムスッと口の端を曲げた。
「なんだよ、せっかく助けに来てやったのに他の男のことを気にするのかよ」
「はぁ? なんで不満そうなんだよ……。普通に考えて笛の持ち主がいなかったらどうしたってなるだろ」
いや、こいつに普通の思考回路はないか……。
「で、本当にドゥーガルドはどうしたんだ?」
「あー……、あれは寝てる。助けも来ずにぐーすか爆睡してる。だから俺一人で来てやったんだ。有り難く思え」
なぜか得意げに胸を張って、恩着せがましくアーロンが礼を要求してきた。
「あー……、えっと、うん、まぁその、ありがとう」
ここまで傲慢に礼を求められると言いたくなくなるものだが、助けに来てくれたことには変わりないので一応礼を言う。
「なんだ、そのやる気のない礼はっ。本当に可愛くねぇ奴だな。……まぁ、礼は体でしてもらえばいいか」
アーロンはニヤリと口の端を吊り上げると、俺を押し倒した。
「ちょっ、なんで助けに来た奴が襲ってんだよ!」
「はぁ? 助けてやったんだから当然だろ。金がねぇなら体で払うのがこの世の常識だ」
「どこの世界の常識だよ!」
ヤクザか!? ヤクザなのか、お前は!
「というか、なに他の男のザーメン飲んでんだよ」
苛立った声で責めるように言いながら、ぐちゅぐちゅ、と孔の中に指を入れられ注がれたクロの精液を掻き出される。
その手つきに、鎮まっていた体が再びぶわりと熱を持った。
「ぅ、あ、っン、ゃめ……ッ」
「なに指入れられただけでとろとろになってんだよ。これはお仕置き決定だな。ちょうど首輪と鎖もあるしちょうどいい」
嗜虐心の塊ともいえる笑みを浮かべジャラリと鎖を手にしたアーロンに、体中の血がサッと引いた。
一番持っちゃいけないヤバい奴に持たれてしまった……!
服従の首輪だという事がバレたら一巻の終わりだ。
どうにかしてここから逃げ出さないと俺に明日は来ない……!
味方が助けに来たはずなのにどうしてさらに危機的状況的に陥っているんだと泣きそうになっていると、
「貴様……ッ! ソウシに何をしている!」
怒気と殺気がほとばしる声が、地に響くほど辺りに轟いた。
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