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「も~、ボクの魔力をこんな無駄なことに使わせないでよね~」
ケガの部分に治癒魔法を施しながら、チェルノが唇を尖らせた。
その横でジェラルドが憤然と頷く。
「本当に無駄な争いでチェルノの魔力を使わないでほしいよ、全く!」
「うるせぇ! 使えるものは使わねぇと勿体ねぇだろうが! というか、右半分焦げてるお前こそ治癒魔法使ってもらえよ! 昨日の夜何があった!?」
アーロンのツッコミはもっともだったが、触らぬチェルノ様に祟りなし、だ。俺は知らない振りをした。
「ふふっ、ちょっと僕が色々ドジってしまってね。安眠魔法解除道具を街で買ったから使ってみたけどだめだったなぁ。もう少しでうまくいくところだったのに残念」
「あはは~、ボクこそドジちゃって、あともう少しで全身丸焦げにできたのにな~」
ふふふ~、あはは~と、恍惚の表情のジェラルドと殺気をみなぎらせたチェルノの笑い声が響き合い殺伐とした空気を生む。
こ、こえーよ!
「それにしてもクロちゃんが人狼だったとはびっくりしたよ~」
チェルノが少し離れたところに座る狼の姿のクロを興味深そうにまじまじと見詰める。
「文献では確か百年前くらいに絶滅したって書いてたのにな~」
「そうだ、間違っていない。私たちは絶滅した。人間たちが狩り尽くしたせいでな」
嫌みっぽく言ってクロがギロリと睨んだ。
……ん? え? 嫌みっぽく、言って?
「ちょ、ちょっと待った! クロ、お前その姿でもしゃべれるのかよ!」
昨晩のこともあり、警戒してクロと距離を置いていたが、驚きの事実に思わず声を上げる。
「ソウシ……! ようやくこっちを見てくれた……!」
自分の方を向いてくれたのが嬉しかったのだろう、クロはぱぁと目を輝かせパタパタと尻尾を振った。
う……っ! やっぱり可愛い……!
昨晩あんなひどい目にあったというのに、そのあまりにも可愛らしい姿と反応についつい胸がきゅんとなる。
動物の可愛さ、恐るべし……!
あまりの可愛さに絆されかけていると、
「……ソウシ、あの可愛い姿に惑わされてはだめだ。あれは罠だ」
俺をクッションのように抱き締めながら真後ろにぴとりと貼り付いて座るドゥーガルドが、腰に回した腕の力をぎゅっと強めた。
俺は背後のひっつき虫に思わずハァ、と大きく溜め息を吐いた。
昨晩のことで俺もクロを警戒しているが、事の経緯を聞いたドゥーガルドはそれ以上に警戒し、それからというもの俺からべったりとくっついて離れない。
今だって逆毛を立たせて威嚇する犬のような険しい空気を背中にピリピリと直に感じている。
俺からすればケツを狙うケダモノということでドゥーガルドもクロも同じなのだが……。
口を挟んできたドゥーガルドをクロがじろりと睨む。
「本当に鬱陶しい奴だな。あの守銭奴の次に嫌いだ。自分がソウシに可愛がってもらえないからといって妬むな、出来損ないの犬め」
フッと鼻先で笑われ、ドゥーガルドのこめかみにぴきりと青筋が立つ。
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