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「……貴様、何のつもりだ」 「なにお前も普通についてこようとしてんだ。テメェみたいなあぶねぇ奴を旅に同伴させるわけねぇだろ」  凄みをきかせた低い声でアーロンが言った。 「俺としてはここでお前を殺しときてぇけど、あの流され荷物持ちが泣いたら鬱陶しいから殺さないでいてやる。俺の気持ちが変わる前にさっさと森に帰れ」  冷たく言い放ってアーロンが森の方をくいっと顎で差す。  おい! まさか流され荷物持ちって俺のことか! とツッコみたかったが、なぜか一触即発な空気が立ちこめていてそんなこと言えなかった。 「ア、アーロン、なにもそこまで言わなくとも……」  おずおずと控えめに物申すと、アーロンが「あぁ?」と苛立ちを露わにした顔で振り返った。 「お前はアホなのか? こいつは昨日、お前を襲ったんだぞ。しかも妊娠させられそうになったんだからな」 「う……っ、それはそうだけどさ……」  もっともな言葉に返す言葉がない。 「分かったら学習能力に加えて警戒心も買ってこい、この平和ボケ野郎」  どこに売ってんだよ、それ……と思いつつもやはりツッコめない。 「……俺も不本意ではあるがその男と同意見だ。ソウシを狙う不穏分子は少ない方がいい」  そう言ってドゥーガルドが俺の肩を抱き寄せる。  いや、お前も俺からしたら不穏分子だけどな! 「テメェも不穏分子だろうがっ。勇者様一行のメンバーでなかったら殺してやったのによ」  ハッと唾を吐き捨てるように言ってアーロンがドゥーガルドを睨む。  いやだから! お前も! 俺からしたら不穏分子!  でも確かに俺のケツを狙う不穏分子はひとりでも少ない方がいい。人の姿になれるのは満月だけとはいえ、俺を狙っていることに間違いはない。  それに王都で元の世界の戻り方を調べたら帰るのだからすぐにお別れだ。そう考えたらまぁここで別れてもいいのかもしれないとも思う。  アーロンとドゥーガルドからケツを守るだけで手一杯だ。なるべく不穏分子は取り除いておきたいというのが本音だ。  ここで別れを切り出すのも酷な気もするが、俺に会うまでもひとりで森の中で生きて来られたのだ。俺が心配する必要もないだろう。  そう思って口を開きかけた時、クロが俯いてぽそりと呟いた。   「……もう、ひとりは嫌だ」  いつかの遠吠えを思い出させる悲しげな響きを持つその声に、俺は息が詰まった。  昨晩、俺の身体を無理やり開いた人物と同一人物だと思えないほど弱々しく、力なく垂れ下がった耳や尻尾も相まって見ている者の胸を否応なく切なくさせた。  もしかするとクロがあんなにも子作りに執着していたのは、この一言が全てを物語っているのかもしれない。  呪いを受けた身で長い年月を孤独に生きてきたとなれば、誰かに傍にいて欲しいと願うのは当然のことなのかもしれない。  ……って、いやいやいや! でも無理やり孕ませるのはだめだろう!  しんみりと流されそうになった自分に慌てて一喝する。

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