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第2話 ぜんぶぜんぶアイツのせい!

慶介は俺の幼なじみであり、この十六年間俺を虐げ続けてきた最低最悪の人間だ。 ケンカが強く、頭も良く、圧倒的なカリスマ的オーラを纏う奴は、どこに行っても王様でありみんなが彼に従うのは当然といった感じだった。 俺からすれば王様どころか魔王って感じだけれど。 幼なじみとあってか、昔から俺には当たりがきつく、嫌な掃除当番や役目を押しつけるのは当たり前、むしゃくしゃするという自分勝手以外の何ものでもない理不尽な理由で俺にプロレスの技をかけるわ、俺の人より少し控えめなマグナムをズボンから無理矢理引き出してあざ笑うわ、とにかくいろいろ最低な奴だ。 特に、というか地味に嫌なのは、毎日学校の登下校に荷物持ちをさせられることだ。 幼稚園の時からずっとだ。 こんな奴とは一秒でも早く距離を置きたいと、奴には内緒で遠い高校を受験したのだが、なぜか周囲にあれだけ口止めをしていたにも関わらず奴にばれてしまい、不幸にも同じ高校に進学することになった。 奴から逃れるために家から遠い高校に行くため一生懸命勉強したのに、それは皮肉にも、登下校の時間を、つまりは荷物持ちの時間を長くすることとなったのだ。 下校時、慶介とそのとりまきたちの後ろを数歩遅れて歩く俺に、慶介が振り返って怒鳴った。 「おい、草司(そうし)! もっと早く歩けよ!」 「む、無理……」 「ったく、お前は昔からトロいよな」 呆れたように慶介が溜め息を吐くと周りの奴らが同調するように笑った。 いやいや! これだけの荷物を持ってれば誰でも遅くなるわ! 俺は心の中で叫んだ。 俺の背中や腕には、慶介の荷物はもちろん、奴らのとりまきたちの荷物まであるのだ。 慶介は自分の分だけでなく他の奴らの分まで「コイツに全部持たせていいから」と言って俺に持たせるのだ。 俺はお前の奴隷か! とツッコミたいけど恐らく真顔で「そうだろ」と答えられそうなのでやめておく。 慶介たちはいわゆるリア充という部類の人間で真っ直ぐ家に帰る奴らでなく、カラオケやボーリング、ファーストフード店などを渡り歩く。 その間、荷物を持つのはもちろん俺だ。 その日もカラオケに行き、ゲーセンに寄り、辺りはすっかり真っ暗になっていた。 家に近づくたびに、とりまきたちとその荷物が少しずつ減っていく。 けれど、肝心の慶介の荷物がいつまでも俺の背中に鎮座していた。 家が隣同士だから仕方ないとはいえ、あの土地に家を建てると決めた親を恨まずにはいられない。 荷物が減って体がだいぶ楽になっても、俺は歩幅を変えず奴の少し後ろを歩いた。 きっと自分でも知らないうちに、コイツ--王様の横を奴隷が歩いてはいけないという意識が骨の髄まで染み込んでいるのだろう。 「お前、相変わらず音痴だよなぁ」 「……まぁ、親譲りだから」 今日は慶介にカラオケで勝手に俺の好きなアニメの歌を入れられ、みんなの前で歌わせられた。 おかげでひた隠しにしていたオタク趣味と音痴がばれてしまった。 「ほんとお前は何をやってもダメだよな。歌もだめ、運動もだめ、頭もだめ、顔もだめ、性格も根暗でオタク」 慶介は歌うように俺のダメなところを言い並べる。 それはそれは嬉々とした声で。 不意に、慶介が振り返った。 頭上の満月が不気味に見えるくらい、口元を嫌な笑いで歪ませ。 「お前、生きてて楽しいわけ?」 俺の心を抉ろうとするような嬉々とした悪意に満ちた声だった。 その時、異世界トリップしてぇな、と思った。 冗談抜きで本気で。 すると、その瞬間、頭上の満月が見る見るうちに赤く染まっていった。 そしてなぜか暗雲もないのに雷鳴が鳴り響いた。 これには慶介も驚き辺りを見回した。 「……サマ、オムカエニ……」 どこからか不気味な声が響き、目も開けられないほどの強い光が僕を包んだ。

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