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第6話 お願いします!
「……実は、信じてもらえないかもしれないけど、俺はこの世界の人間じゃなくて、別の世界から来た人間で……」
「あ~なるほどね~」
神妙に打ち明けた俺だったが、チェルノがあっさり納得したことに戸惑った。
てっきり「はぁ?」と素っ頓狂な声と訝しげな視線を向けられるものだと覚悟していたので彼の反応は意外だった。
「え? そんな簡単に納得しちゃうんですか!?」
「たまにそういう人いるしね~」
「そう頻繁でもないけど、信じられないというほど理解できないという話じゃないよ」
「……魔王のせいで異界との境界が崩れやすくなっているという話も聞くからな」
彼らの納得の早さに、俺は肩すかしを食らった気分だった。
すげぇご都合主義……!
「もしかして、自分は異世界から来た特別な存在とでも思ったのか?」
クズ野郎が鼻で笑った。
うるせぇ!
本当に嫌な奴だな!
奴への悪印象は留まることを知らない。
まぁ、何はともあれ理解が早いのは有り難かった。
おかげで説明する手間がはぶけた。
「それなら話は早いです。元の世界に戻りたいんですけど、どうしたら帰れるんですか?」
クズ野郎以外の顔を見て訊ねた。
俺のように異世界トリップしてきた人間がいるのだから、当然帰る方法も何かあるだろう。
そう高をくくっていた。
しかし、寄越された返事は無慈悲なものだった。
「う~ん、分かんな~い」
「聞いたことないな。ごめんね」
「……俺も知らない」
え!? マジで!?
うそだろ!?
クズ野郎の方も一応確認のためちらりと見てみたが、俺の話など聞いていないようで、さっきモンスターから奪った斧を振りながら「五千ピーロはいくかな」などと鼻歌交じりに呟いていた。
「そ、そんな……」
絶望的な気持ちに足元の力が抜けて、俺はその場にへたり込んだ。
元いた世界も決していい世界ではなかったけれど、獰猛なモンスターがいるこの世界よりはマシだ。
一体、俺はこれからどうしたら……。
不安や心細さで涙が滲んだ。
すると項垂れる俺の傍に黒髪の男が膝をついて顔を覗き込んできた。
「……泣くな。男が簡単に泣くものじゃない」
そう言って男は俺の目元に溜まった涙を親指で拭った。
言葉は厳しいものだけれど、その手は優しかった。
「……すみません」
男の優しい手つきに安心したと同時に、泣いたことが恥ずかしくなった俺は誤魔化すようにゴシゴシと自分の腕で乱暴に目元を拭った。
そんな俺を見て無言で頷くと、男は立ち上がりチェルノの方へ振り返った。
「……チェルノ、異界と繋がる方法は何かないのか?」
「う~ん、えっと~、そうだねぇ……」
チェルノが人差し指を唇に当てながら考える。
「……絶対とは言えないけど異界と繋がる方法はないわけではないよ~」
「ほ、本当ですか! 教えてください!」
俺は縋る思いでチェルノの言葉に飛びついた。
「えっとね~、魔王のいる魔獄島は強大な魔力で空間が歪んでいるところが結構あるらしいんだ~。だから、その歪みを利用すれば異界と繋がることができるかもしれない~」
「魔王……」
不穏な単語に、俺の顔から希望と共に血の気が引いた。
「……どうしてもそこじゃないとだめですか?」
「う~ん、他にもあるかもしれないけど確実に空間の歪みがあるのは魔獄島だね~」
「そ、そうですか……」
チェルノの返答に俺は項垂れた。
魔王とかすげぇ怖そう……。
生きて帰れるのか?
そもそも生きて辿り着けるのだろうか……。
けれど、ここにずっといても何も変わらない。
モンスターの餌になってしまう可能性の方が高い。
俺は意を決して訊ねた。
「……あの、もしかしてあなた達は魔王を倒すために旅をしているとかですか?」
剣や弓などの武器を持った面々に、魔法の杖と思われるものを手にするチェルノ。
ファンタジー系のゲームだったら間違いなく魔王討伐のために旅するパーティーだ。
「……ああ、そうだ」
黒髪の男が答えた。
俺はその答えに内心ガッツポーズをした。
よし、それなら……!
「じゃあお願いです! 俺も一緒について行かせてください! お願いします!」
懇願するように叫んで、頭を深く下げた。
魔王がいるところになんて俺一人では到底行けるはずがない。
でも魔王討伐を目的とするような人たちと一緒なら心強いし、島まで辿り着ける可能性は格段に上がる。
「お願いします! 俺、元の世界に戻りたいです……っ」
必死だった。
もし断られたら……と思うと不安で声が震えた。
やっぱり異世界トリップなんかするもんじゃない。
知らない世界だなんて不安と恐怖ばっかりだ……。
そんなことを思いながら頭を下げたまま彼らの返答を待っていると、
「は? 嫌に決まってるだろ」
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