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第8話 正真正銘ラストチャンス
「ごめんねぇ、アーロンがひどいこと言って~」
呆然と立ち尽くす俺の肩にチェルノが慰めるようにポンと手を置いた。
不気味な笑顔のせいで謝意や誠意は半減、いやほぼ消えてしまっているが、俺には救いの女神のように見えた。
「チェルノさん……!」
「でもアーロンが言っていることも間違いではないんだよね~。ボクたちは一日でも早く魔王を倒さないといけないんだ~。ごめんね~。だからせめてものお詫びとして、これあげる~」
チェルノが黒マントの中をゴソゴソと探り、手の平サイズの袋を取り出した。
中には卵に似た黒い玉が五つ入っていた。
「じゃ~ん、光玉(ひかりだま)だよ~」
「な、なんですか、これ?」
「光玉~。もしモンスターに出くわしたら、これを地面に叩きつけるといいよ~。中から光が放たれてモンスターは三日三晩目が見えなくなるからそのうちに逃げなよ~」
おお……! なんかファンタジーっぽいアイテム出て来た!
でも正直、これだけでモンスターのいる森を抜けられるのだろうか……。
「おい! 何してるんだ! 早く来い!」
先を行くクズ野郎が振り返って苛立たしげに叫んだ。
「はいはい~、すぐ行くよ~。じゃあボクたちは行くね~。本当にごめんね~」
チェルノは光玉の入った袋を俺に渡すと、小走りでアーロンの元に向かった。
「チェルノ、待ってよー!」
「……すまない」
弓使いの男も、黒髪の男も俺を置いて歩き始めた。
みんなの背中がどんどん遠のいていく。
けれど、俺にその背中を引き留める術はなく、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
チェルノがくれた光玉を見詰めた。
光玉は五つだけ。
つまり村に着くまでに六匹以上モンスターに遭遇したらアウトということだ。
そもそも地図もないのに村に辿り着けるのか……。
不安が次々とわき上がるたびに脚の震えがひどくなっていく。
行くしか、ないのか……。
奴が顎で指した道を振り返る。
不気味な薄暗さとどこかから聞こえる獣の鳴き声に、体が竦んだ。
ここにいつまでもいても時間の無駄だと言うことは分かっている。
でも、それでも、体が動かない。
「……あ、アーロン! そういえば、次は荷物持ちは君だよ~」
声が遠くなったチェルノの言葉に、俺は無意識に力なく彼らの方を振り返った。
「ハァ? 早すぎるだろう!」
「仕方ないよ~。みんなで決めたルールでしょ~。モンスターに出くわしたら荷物持ち交代~」
「つーか、勇者の俺に荷物を持たせるとかおかしいだろ!」
「関係ないよ~。みんなの荷物だもん~」
「そうだよ。この小さく可愛い華奢なチェルノだって頑張って持ってたんだからね!」
「うるせぇ、黙れクソ野郎。まぁ、荷物はあの茂みに置いてるからさ~」
「せめてここまで持って来い!」
「やだよ~」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ彼らの言葉に、ある希望の光が俺の頭の中に差し込んできた。
俺は全力で走って彼らの背中を追いかけた。
心臓がバクバクと鳴っている。
これがラストチャンスだ……!
「ま、待ってくれ!」
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