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第21話 苦しむクズ

**** 「どーして今日はドゥーガルドが荷物を持ってるの~?」 チェルノが不思議そうに首を傾げて、大きな荷物を背負ったドゥーガルドと手ぶらの俺を交互に見る。 まぁ、当然の疑問だろう。 ただ事実を言うのははばかられる。 「……実はソウシが昨日俺の」 「マ、マッサージ! 昨日疲れていたからマッサージしてやったんだよ! そしたらお礼に今日は荷物持ってくれるってさ!」 恥もなく正直に昨日のことを話そうとするドゥーガルドの言葉を慌てて遮って嘘をついた。 「ふぅん、そうなんだ~。よかったね~」 特に俺の言葉を疑うことなく納得したチェルノに、ほっと胸をなで下ろしていると、 「じゃあ今日はお前は俺を背負え」 「ぐぇ!」 突然、背後からアーロンに飛びつかれ足のバランスを崩したが、ドゥーガルドがさっと手を出してくれたおかげで何とか倒れずにすんだ。 「なにすんだ!」 振り返って怒鳴るが、アーロンは悪びれる様子もなく鬱陶しそうに顔をしかめるだけだった。 「うるせぇ。俺は昨日の媚薬のせいでまだ体がだりぃんだよ。それでも休まず先を急ごうとしてやってんだ。有り難く思え」 「ここで一生休んでろ!」 なぜこうも上から目線になれるんだ! 確かに息が少し荒く、体も熱っぽいし、いつもの覇気も全くない。 ただ、不遜な態度だけは一ミリも変わらず、むしろ体調不良を理由に増長している節すらある。 労る気持ちが微塵もわかないのもそのせいだ。 さっさと降りろ! と背中のアーロンに言い放とうと口を開きかけた時、不意に背中が軽くなった。 ただ、それはアーロンが自主的に俺の背中から降りたわけではなく、ドゥーガルドがアーロンを無理矢理引き剥がしたからだ。 「なにしやがる!」 地に尻餅をついたアーロンが、ドゥーガルドを睨みつける。 「……ソウシにくっつくな。いやがっている」 ドゥーガルドは冷たい目でアーロンを睨み付け、庇うようにして俺を引き寄せた。 「はぁ? なんでこいつが嫌がってるからって俺が気をつかわねぇといけねぇんだよ。いいか? よく聞け! いつでもどこでも俺のしたいことが最重要事項だ! こいつの意志なんか二の次、三の次、いや百の次くらいでいいんだよ!」 「どんだけ俺の優先順位低いんだよ!」 逆に間の二番から九十九番の内容をききたいわ! 自分ファースト野郎を睨みつけていると、 「……大丈夫だ。俺がソウシのことは守る」 そう言ってぎゅっと俺の肩を抱き寄せてドゥーガルドは歩き始めた。 お前は王子か! そう突っ込んでやりたかったが、真顔で、あるいははにかんで頷きそうな気がしてならなかったので、俺はぐっと堪えた。 「あー……、まぁ守ってくれるのは有り難いっちゃあ有り難いんだけど、距離近くね? こんなに密着する必要ある?」 「……またアーロンが背中に飛びかかってくるかもしれない」 「その時は剣で振り払ってくれればよくね? とにかく一旦離れよう? な? な?」 「……離れたくない」 俺を抱き寄せる手にぎゅっと力が入る。 わがままか! まるで母親離れできない子供のようだ。 何を言っても無駄な気がして、俺はため息をついてドゥーガルドの手をそのまま放置することにした。 「あー! クソッ! 女を抱きてぇ! もう女型のモンスターでも突っ込めればなんでもいい!」 うわ……、最低だなこいつ……。 地面に座り込んだまま勇者らしからぬ最低なことを叫ぶアーロンに軽蔑の眼差しを向ける。 「……最低だな」 「最低だね」 「あははは~、最低だね~」 仲間の気持ちがこんなに一致したのは初めてのことだった。 「うるせぇ! さっさとお前らどんなんでもいいから女を探してこい! お前は南! ドゥーガルドは北! チェルノは東! ジェラルドは西だ! 行ってこい!」 「あははは~、バカは置いて先を急ごう~!」 「あ、おい、こら、置いていくな! クソ! あー! 誰か俺を娼館まで緊急搬送しろぉぉぉ!」 アーロンの最低な絶叫に、木にとまっていた鳥たちが驚いたのか、もしくは鬱陶しいと思ったのかバサバサと飛び立っていった。

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