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第22話 闇夜には気を付けて!
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結局、アーロンがぎゃあぎゃあとうるさい上に、すぐに座り込むものだから、今日はあまり先に進めなかった。
暗くなったので、各自テントをはることにした。
ドゥーガルドに「……俺のテントで寝ないか?」と優しさとも下心ともつかない誘いを受けたが、丁重に断った。
軽い夕食を終えると、みんなそれぞれ自分のテントに戻って行った。
残った俺はマントに身をくるんでそのまま横になった。
今日は荷物持ちをしないですんだおかげで、いつもと疲れが全然違う。
久しぶりに、沼に沈んでいくような暗い眠りとは違う爽やかな眠りにつくことができた。
夜中、尿意で目が覚めた。
自分の尿意とはいえ、ぐっすり眠っていたのに起こされるのはやっぱり気持ちのいいものじゃない。
俺は心の中で舌打ちしながらランプに火をつけ、用を足しに木々の茂みに入っていった。
寝ているとは言え、やっぱり人がいる近くでするのは恥ずかしい。
何かあっても走って戻ってこれるくらいに茂みの奥へ進んでいく。
――ガサ
闇の中に茂みが揺れる音が響いた。
心臓が跳ね上がる。
俺は恐る恐るランプを持ち上げて辺りを見回した。
すると茂みの中から小さな野ウサギがぴょん、と飛び出てきた。
可愛らしい物音の正体に、ほっと胸を撫で下ろす。
異世界に来てからモンスターばかりの印象が強いが、考えてみれば普通に動物もいるのだ。
自分の臆病な早とちりに苦笑しながら用をたす。
――ガサ
また物音がした。
けれどさっきの今なので警戒心も薄れていて、音の方を振り返るよりもズボンのチャックを閉めることを優先させてしまった。
それがいけなかった。
突然、後ろから腕が伸びてきて体の自由を奪われた。
「……っ!」
モンスターかと思い一瞬息が止まった。
しかし手の感触は人間のものだった。
どちらにせよ自分に害があることには変わりはない。
俺は助けを呼ぼうとしたが、布を持った手で口を塞がれてしまい、必死の叫びも手の平に吸い込まれ意味をなさなかった。
布は湿っていていやな甘い匂いを発していた。
それが鼻の奥を濡らし、徐々に頭の中にまで染み込んでいった。
その甘い匂いが濃くなるほどに目眩がして体から力が抜けた。
その隙をつくかのように、俺の口を塞いでいただけの手が、突然その指を口の中に突っ込み無理矢理こじ開けた。
抵抗しようとしたが力が入らず、開かれた口からぬるい液体が流し込まれた。
「……っ!」
喉を伝い胃の中に落ちていった液体がまるで燃え上がっているかのように、体中が熱くなってきた。
しかもただ熱いだけじゃない。
身悶えするような言いようのない焦れったさが、熱と一緒に体中に滲むのだ。
「……っ、はっ、はぁっ……」
口からこぼれ落ちる呼吸が、熱でいやらしく歪んでまるで喘ぎ声のようで、自分でも信じられなかった。
「……よし、これで準備完了だな」
拘束する奴が嬉々として呟いた。
こちらの苦しげな声など意に介さないこのクズな発言、振り向かずとも誰か分かったが、俺は信じられず思わず振り返った。
「ア、アーロン!?」
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