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最終話
「佐奈ぁーー! 大丈夫!?」
突然騒がしく部屋のドアを開けたのは、学校から帰宅した慎二郎だった。
「び、びっくりした……。お帰り、慎二郎」
「ただいま……ってそれどころじゃないよ! 佐奈、体育の授業で腰を捻ったって本当? 大丈夫? 病院は?」
青い顔で慎二郎はベッドの傍へと駆け寄ると、矢継ぎ早に質問攻めにしてくる。
どうやら優作は体育の授業での負傷ということにしてくれたようだ。
「病院行くほどじゃないよ。ただちょっと立ってるのが辛くて、夕飯も優作にお願いしてるんだ……ごめんな」
「そう……良かった」
帰宅するなり佐奈の状態を聞かされ、着替えることもせず心配して部屋に来てくれた慎二郎。佐奈の返答に心底にホッとした顔を見せたものの、直ぐに怪訝そうに眉が寄っていく。
「ねぇ、なんでそんなに声が掠れてるの? 風邪?」
「え……あ……」
「そうだよ。佐奈はちょっと風邪気味なんだ。飯出来たから下へ行こう」
ギクリと肝を冷やして佐奈が返答に困っていると、優作がタイミング良く部屋へと入ってきた。慎二郎を押し退け、優作は佐奈を横抱きに抱き上げる。
「ゆ、優作……もう歩けるよ」
「ダーメ。腰は大事だから労らないと」
意味深に佐奈の耳元で優作は囁く。
佐奈はホッとする間もなく、顔が一気に熱くなった。
「なに、この空気」
じとと二人に鋭い視線を向ける慎二郎は「まさか……」と勘の鋭さを発揮してしまう。
「約束破ったな! 何が体育の授業だ!」
激昂した慎二郎は優作にひたすら噛み付く。
優作は口先で謝りながら佐奈を下へ運ぶと、キッチンテーブルへと座らせる。その間もずっと慎二郎は文句を言う。
しかしようやく落ち着いてくると、今度のターゲットは佐奈へと移った。
「佐奈、明後日の土曜日はユウはバイトだから、二人で出掛けよう! 断らないよね?」
天使のような笑顔を覗かせながらも、目が全く笑っていない。弱味を握られた佐奈は、もう頷くことしか出来なかった。
そのやり取りに、優作は優作で不満を口にし、再び二人は口論し合う。
佐奈を間に挟み、取り合うように佐奈の身体は二人の間を行ったり来たり。
この光景はきっと続くのだろうなと思うと、佐奈は少し可笑しくなって笑みを溢した。
その佐奈に見惚れた二人。
「佐奈、愛してるよ」
「佐奈、ずっと大好きだ」
競い合うように愛の言葉を告げる二人に、佐奈は満面の笑みを見せ「ありがとう」と二人の手を握った。
今日も今日とて
次男は愛される──……。
Fin
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