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第12話
男兄弟でこんなにベタベタと密着するのは、慎二郎らの外国の血が濃いこともあるのだろうが、優作と慎二郎が二人仲良く密着しているところを佐奈は見たことがない。
触れてくるのは、二人ともに佐奈に対してだけだ。甘えられることは佐奈自身嫌ではない。むしろ好かれているのだと嬉しくもある。しかし慎二郎は来年には高校生となる。そろそろ〝兄離れ〟をしないといけないのではと、秘かに佐奈は心配もしている。
「こ、こら、慎二郎! あんまり指を動かさないで。くすぐったい」
胸の辺りを這う慎二郎の指に、佐奈は擽ったさに身を捩る。だが慎二郎はそんな佐奈の反応にいたずら心に火がついたのか、脇腹や腹、胸へと更に指を滑らせていく。
「ちょ……あはは……やめ……」
「何やってんだお前」
「いった!」
唸るような低い声が聞こえ、何事かと驚いた佐奈の目に、優作が慎二郎の右腕を捻り上げているのが映り込んだ。
「いてぇよユウ、離せ!」
「ベタベタと佐奈に触るな」
「はぁ!?」
慎二郎は優作の手を強引に振りほどくと、鋭い眼光で優作と対峙する。不穏な空気に、佐奈は直ぐに二人の間に身体を滑り込ませた。
「ちょっと慎二郎、朝から大きな声出すなって。アビーらが起きてくるだろ」
「でもユウの奴、佐奈に触るなって! 自分だって触るくせに、なんでユウにそんな事言われなきゃなんねぇんだよ」
「とにかく落ち着けって」
助けを求めて佐奈は優作を見るが、優作は慎二郎に冷たい一瞥だけをして、そのままリビングから出て行ってしまった。
「あいつ、マジでウザい」
「そういうこと言わないの」
慎二郎にそう窘めつつも、なぜ優作が怒っていたのかが佐奈には分からなかった。お陰で昨日の気まずさは消えてくれたが、新たに気掛かりが出来てしまった。
「なぁに? またあの二人ケンカ?」
今日は高等部では始業式のため佐奈は休みだ。それぞれが不機嫌に登校し、三人となったリビングでアビーが愉快そうに言うのを、佐奈は苦笑いで返すしか出来なかった。
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