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第11話

 そして優作本人は何事もなかったような顔をして「もう大丈夫」と佐奈に言うと、リビングへと戻って行った。 「大丈夫なものか……」  なるべく平静を装っていたものが一気に崩れ、佐奈の顔は熱く火照りだす。掴まれていた手首を握りしめながら、佐奈はそのままズルズルとフローリングへと尻をつけ、暫く蹲っていた。  翌日佐奈はいつもより早く起き、朝食の準備をしていた。というのも、ほぼ寝られなかったからだ。昨日優作に咥えられた親指の感触がなかなか消えてくれず、悶々としていたせいだ。  あれは優作にとっては、ただの応急手当てにすぎない。幼いころから優作は佐奈へのスキンシップは多かったため、優作からすれば何て事のない行為だ。それは十分過ぎるほどに分かっている。しかし佐奈は兄に特別な感情を抱いてることを自覚してからは、少しのスキンシップでも過剰に反応してしまうのだ。 「これじゃ、いつか気付かれてしまう……」 「なーにが気付かれてしまうの?」  突然背後から耳元でそう訊ねられ、佐奈はヒヤリと固まった。そんな佐奈の身体にゆっくりと両腕を回される。 「佐奈~おはよ」 「お、おはよ……慎二郎。早いね」 「昨日は風呂入らずにずっと一哉らと喋ってたから、シャワー浴びようと思って。で、何が気付かれるの?」  話が逸れたと内心安堵したが、やはりそういう訳にはいかないようだと、佐奈は逃げたい気分だった。 「何って……最近勉強をしてなかったから、成績落ちるだろうなって。そしたらバレちゃうだろ?」 「そんなの、アビーたちは気にしないの知ってんじゃん。それに佐奈はオレより賢いしさ」 「優作の方が賢いよ」 「ユウのことはどうでもいいよ」  今度こそ話を逸らせたと安心する佐奈に、慎二郎は甘えるように髪に顔を埋めて、きつく抱きしめてきた。

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