24 / 141

第24話

 そして何より佐奈が驚いたのは、家族以外の他人には、塩対応が有名である優作が笑っていることだった。余りにも珍し過ぎる光景に、佐奈の足が止まってしまった。 「深山? どうかしたのかよ」 「……え、あ……何でもない」  佐奈は倉橋へと笑い、止めていた足を前に出した。倉橋は怪訝そうな顔をしたが、追及はせず佐奈の隣を歩く。  優作とて、楽しいことがあれば笑うだろう。例えその身にそっと手を触れられようが。  だが、例え先生でも触れないで欲しい。遠慮がちにそっと触れられる様が、余計に佐奈には不愉快に映った。  そうこれはただの嫉妬だ。こんな些細なことを気にしていては、この先思いやられる。分かってはいるが、湧いてしまう感情は佐奈にはどうしようもなかった。  先生と別れた優作は通路を渡りきると、佐奈の方へと歩いてきた。そして佐奈に気付くと、優作は魅力的な微笑を浮かべた。それだけで佐奈の落ちていたものが、ふわりと浮上する。 「次は移動教室か」 「うん」  佐奈の前に立った優作は、教科書を持つ佐奈の手首をスルリと触れるようにして柔く握ると、その角度を少し変え、覗き込む。 「生物か。安井は結構自由にさせてくれるだろ?」 「そうなんだよ。安井先生優しいし、席も自由だし。元が先に取りに行ってくれたんだ」 「あぁ……」  気の無い返事に、佐奈はまともに顔を見れていなかった優作の顔を、どうしたのかと見上げた。だが優作はいつもの優しく綺麗な顔で佐奈を見ている。  そして「遅れるなよ」と言うと、佐奈の腕を軽くポンポンとタッチしてから、優作はそのまま立ち去って行った。  回廊にいる多くの生徒が、優作を目で追う。佐奈もその一人になっていたが、倉橋に腕を引かれ、我に返ることになった。

ともだちにシェアしよう!