23 / 141
第23話
◇
高校生活も晩春を迎える頃には、随分と慣れたものになる。風の匂いも変わり、ゴールデンウィークが目前と迫れば、クラス、いや世間が浮き足立つ時期だ。
佐奈のクラスは全体的に仲が良いため、学園生活もとても過ごしやすく、佐奈は楽しんでいた。
「よし、席はおれが取ってくるから!」
「任せた!」
授業終了のチャイムが鳴るや、元 は次の生物の教科書を持つと、脱兎のごとく教室を飛び出して行った。
生物の教室は少し広めで、机は三人が座れる長机。そして自由に好きな場所に座れる唯一の授業となれば、皆は競うように教室から走り出す。
「足の速い安西に任せておけば確実だな」
「うん」
佐奈は倉橋と一緒に悠々と目的の教室へ向かう。
この学園は巨大な一つの建物となっており、大型のショッピングモールのように、建物内の中間部分はくり貫かれたように空間となっている。その空間には建物内の行き来が出来るよう、階段と向かいの通路に渡るための通路がある。
生物室は反対通路で、佐奈らの教室がある同じ階の三階にある。
二、三十メートル先の渡り通路までの回廊を歩いていると、ちょうど佐奈らが渡る通路に優作が歩いているのが見えた。
露骨に優作を取り囲むといったことはせず、皆、ひっそりと優作を見つめているのが分かる。
「お、あれってお兄さんじゃねぇ?」
佐奈が倉橋に返事をしようとした時、優作が誰かに呼び止められているのが目に入った。
「あ! 深山、あれだよ! 深山に似てるっていう先生」
「え……?」
佐奈は一瞬眉を寄せ、そして優作へと視線を戻す。
自分に似ているということはさておき、遠目ながらも倉橋が称賛していたのも頷ける程に、カッコいいというよりは、綺麗そうであることが分かった。
ともだちにシェアしよう!