22 / 141
第22話
「いいよ、どうせカラオケは向いてなかったし」
「なんだカラオケ向いてなかったのか」
優作が堪らずといったように笑ったため、佐奈は拗ねたふりをした。
「人前で歌うのが、あんなに恥ずかしいとは思わなかったんだよ」
「じゃあ、今度俺と行くか?」
「二人で行くならオレも行くからな」
リビングからは背中を向けている慎二郎。振り向きもせず、怒気を含んだ物言いをする。自分一人が除け者にされ、慎二郎が拗ねているのかと思った佐奈は、宥めようと口を開きかけた時、頭に大きな手がふわりと乗る。
隣を見上げれば、放っておけという風に優作が首を振る。
「ジムで汗かいたから、風呂行ってくるわ」
「う、うん。あ、ご飯は食べる?」
「あぁ、後でもらうよ」
「分かった」
あの教師の所へ行ったわけではないと分かり、佐奈の気持ちはかなり浮上した。まだ気掛かりはあるが、佐奈は優作のためにオムライスを作るべく再びキッチンに立った。
「佐奈、オレと一緒にカラオケ行こうよ」
食べ終わった皿をシンクに置く慎二郎。佐奈は礼を言い、慎二郎の顔を見上げた。
そして佐奈はふと、最近の慎二郎は妙に大人びた顔をするようになったと感じた。慎二郎はアビーに似ており、小さい時は本当に天使のように可愛らしかった。今でも天使に変わりないが、男らしさも加わり、随分と魅力的な男になったと佐奈は我が弟の成長が嬉しくなった。
「もうカラオケは行かない」
「なんで? 小学生の時、佐奈よく歌ってたけど上手かったじゃん。まさか誰かに下手とか言われたのか」
「言われてないよ。ただあまり好きじゃないなって思っただけだから」
「じゃあ、優作とも行かないでよ」
男らしくなったかと思えば、佐奈に抱きつき甘えん坊になる。そんな慎二郎に、佐奈はやはりまだ中学生なのだと思わず笑ってしまった。
ともだちにシェアしよう!