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第21話

「あ……ごめん──」 「彼女なんていないし。っていうかいらない」 「いらないって……。じゃあ好きな子も……」  またもや余計なことを口走ってしまったと佐奈は口をつぐむが、慎二郎は何故か不敵に口角を上げた。 「好きな人ならいるよ」 「そうなの!? それは良かったよ」  佐奈は安心して、にっこりと微笑む。 「好きな人は、もちろん佐奈だよ」  安心したのは束の間。佐奈の眉は落胆したようにハの字に下がる。 「もう慎二郎……真剣に答えてよ。はいはい、オレだって慎二郎は好きだよ」 「あーなにその適当な感じ。オレは──」  意気込む慎二郎の言葉を消してしまうように、リビングのドアがガチャリと音を立てて開く。佐奈は咄嗟に立ち上がった。 「優作!」 「佐奈……早かったんだな」  優作は佐奈と目が合うと、紺碧の目を柔らかく細める。そしてリビングの白い高級ソファに、荷物を置く。手ぶらで出掛けたわけじゃないようだ。 「なんだあれ。さっきはめちゃくちゃ不機嫌だったのに」  慎二郎はボソリと言い、オムライスをかき込む。佐奈はそれが気になりつつも、優作の傍へと行く。 「ラ◯ンしたんだけど、返事がなかったから……」 「あれ? 返事してなかったか?」 「うん」  優作はスマホで画面を確認すると、頭を抱えるように額を手で覆う。 「あー……マジで悪い。返したつもりだったのに、返せてないな」 「ううん、ちょっと心配になったから早めに帰って来たんだけどね」  佐奈がそう言うと、優作は少し驚いたような顔をした。 「……抜けてきたのか?」 「うん」 「それは、本当に悪いことをしたな」  心底に申し訳ないと思っているのがちゃんと伝わり、そんな優作に佐奈は微笑んだ。ただ返事を忘れるという事が今までなかったため、少し気になる佐奈がいた。

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