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第1話
俺の彼氏(タケシ、♂、27歳)は変態だ。
アダルトビデオの監督という仕事もさることながら、それ以上に変態なのは、そうコイツの性癖。
俺はやけに丈の短いピンクのナース服に身をつつみ、タケシの趣味なのかこの衣装を用意したヤツの趣味なのか、肩にかかるくらいのウィッグにあろうことか女性物の下着まで身につけさせられている。
幸か不幸か元が女顔のせいで、タケシが撮るようなビデオに出てくる女に見えなくもないことが一層俺を嫌な気分にさせていた。
「美咲! まだかよ」
おそらく煙草でも吹かしながら、この扉の向こうで今か今かと待っているタケシは、このドアの向こうから大声をあげた。
「うっせー。だまって待ってろ! このド変態が!」
そもそもの発端は、数分前に俺がタケシの仕事場に足を踏み入れたことにはじまる。
世の中の男なら、ソウイウ現場に足を踏み入れられることが至福だと感じるのかもしれないが、残念なことに俺は違った。正直なところ、オンナというものに興味はないし(だからタケシと付き合っている)そもそも人様のベッドシーンなどというものは覗き見るものではないのだ。
にやにやとしながら「美咲にも現場を見せてやるよ」というタケシのお誘いを丁重に断り続けていたというのに、俺の彼氏はそれだけでは済まない性格をしていた。
脚本を忘れた、という監督にあるまじき行為を見事にやってのけたタケシは、まんまとこの俺を撮影現場に呼び寄せることに成功したのだ。
俺が急いで脚本を届けてやったというのに、すでにその場所では撮影が始まっており、タケシはいわゆる監督イスなどというものに座りながら、目の前で繰り広げられる情交を真剣に見つめていた。
その様を不覚にも格好いいなどと思ってしまったことはさておき、その現場においてすでに交わり、衣服という衣服も半分が失われている状況だとというのにストップをかけたタケシが言いだしたのは、「ナース服はやっぱり白がいい」というわけのわからない言葉だった。
思えば、その発言すらもワナであったような気がするのは気のせいであろうか。
その場にいるスタッフ、出演者などをひっくるめた話し合いにわけもわからず俺まで参加をさせられ、「白がいい」と言い張るタケシに向かって、みんなで「ピンクが男のロマン」だと諭した。
スタッフの話を聞けば、衣装の色を今変えることは今までのシーンをすべて撮り直すことになるため、大変な作業になるらしい。
一人わがままを通そうとするタケシに、食ってかかるように「ピンクの方が絶対色っぽい」と豪語すると、タケシは「色っぽいか判断してやるからお前が着てみろ」と言い放ったのである。
その言葉を聞いた瞬間に、周りにいる人たちの目の色が変わったのは言うまでもない。
「これでいいか、くそぉ……。あれ……?」
バタンッと大きくドアを開け、その中にいるであろう大勢の関係者の目にさらされることを恐れていたのだが、そこにいたのはタケシただ一人だった。
「あれ? みんなは?」
「休憩に行かせた」
「休憩? なんで?」
「俺が美咲のこんな可愛い姿を他のヤツらに見せるわけがないだろう」
こんな言葉に胸をときめかしてしまう俺も俺だが、タケシもタケシだ。
あろうことかこの男は、今まで出演者が交わり合っていたベッドで四つん這いになれと命令しはじめたのだ。
「ぜってーやだ!」
「ほら、早くしねぇとアイツら帰ってくるぞ。ただ、四つん這いになってこっち見ながらセリフいうだけでいいから」
「なんで俺がそんなAV女優みたいなことしなきゃなんねーんだよ」
「じゃなきゃピンクの方が色っぽいかどうかわかんねーだろ。やっぱり白にするって監督の俺が言えば、アイツらも仕方なく撮り直すだろうし」
「あー、もー、わかった! だから、周りに迷惑かけんなよ」
タケシは頷くと、少しあのときのにおいが残るベッドに横になる。
仕方なく俺はタケシの体をまたぐように四つん這いになると、ウィッグを揺らしながらタケシの顔を覗き込んだ。
これ、今後ろから見られれば、女ものの下着が丸みえなんじゃないかと思うものの、誰もいない部屋の中ではそれもこの際だ。
「美咲、早く」
「わ、わかってるよ」
タケシにせかされ、顔を赤らめながら俺は言葉を紡いだ。
「お、お加減いかがですかー……っ。た、た、体温、測りま……す……ふぐっ」
指定された台詞を言い終わったか否か、俺の下で俺の様子をチェックしていたタケシは思い切り俺を抱きしめ、キスをした。
「タ……タケシッ」
性急なキスを施され、夢中でその行為に抵抗を示す。
ようやく離した唇で、タケシは言った。
「ピンクでも白でもどっちでもいいな。何よりも、美咲。オマエが一番色っぽい」
キレた俺が、拳を振りおろしたのは言うまでもない。
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