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33-ガタンゴトン[知れば知るほど]1

しばらく裸のままイチャイチャして、また軽くふれ合って。 ただそれだけで、あっという間に時間が過ぎていた。 古い蔵を改装した真矢の部屋は、まるで秘密基地のような居心地の良さがある。 帰りの列車の時刻の30分前に設定していたアラームが鳴った。 耳慣れたその音が、とても残酷に聞こえる。 手をつないだまま蔵の外に出ると、もう外は真っ暗だった。 冬で暗くなるのが早いとはいえ、闇の重さが街中とは全く違う。 街じゃ十八時はまだ夜の入口だ。なのにここではもう、じっとりとした闇が全てを覆っていた。 体感が二時間くらい違う気がする。 そんな中、蔵と工場の間を真矢の父親がタンクのような物を抱えて歩いていた。 60リットルと書いてあるその容器は、仮に中身が入ってなかったとしても重そうに見える。 なのに真矢の父親は重そうな様子でもなく淡々としていた。 「父さん、サヤちゃんもう帰るから」 「そうか」 二人の会話はそれだけだ。 真矢の父親は、最初にオレを見た時に顔を引きつらせた。 アレは一体なんだったんだろう。 服装がワイルド系だったから、ガラの悪い友だちだって引かれた? けど今、オレと真矢は手を繋いでいて、あきらかにイチャイチャとした空気が漏れてしまっているのに、コレは全く気にしていないみてぇだ。 オレはちょっと気まずい思いをしているというのに。 ……うーん。 帰る前に母家(おもや)にも顔をだした。 昼間は見かけなかった真矢の祖父母が居間にいた。 二人とも六十代くらいだろうか。 まだ現役で働いていると、一目でわかる溌剌(はつらつ)さがあった。 真矢の母親がオレと話したがっていたけど、ゆっくり話していられるような時間はない。 「また寄らせていただきます」 自分でもビックリするほど、愛想良く別れの挨拶をできた。 真矢と親しくなる事で、今まで自分になかった要素が根付いたみたいだ。 さらに真矢の妹も顔をのぞかせた。 中学生の妹は、年のわりには上品でキレイな印象だった。 けど、オレを見るなり『きゃああ』と大きな叫び声をあげられてしまった。 「え?なに!?」 「ああ、気にしなくていいよ。ただ珍しがってるだけだから」 真矢は興奮気味の妹をスルーして、平然と駅に向かった。 無人駅のホームで身を寄せあって、列車を待っている。 そこで気になってた事を聞いた。 「真矢の父さん、最初にオレを見たとき、なんか顔引きつらせてたんだけど……」 「へぇ、父さんが初対面でそんなに表情を出すなんて。俺がずっとサヤちゃんの話してたから、親しみを持ってるのかもな」 「………え?」 親しみを持って顔を引きつらせるってあるのか? 「父さんと、よく話しするのか?」 真矢と似てすごく無口なタイプに見えたけど。 「ああ、サヤちゃんの事はいつも父さんに相談してた」 「……えっっ????何の相談?」 真矢がオレの事を……なんか、不安しか感じない。 「色々だよ。母さんに話をすると、何かと詮索されて困るけど、父さんに話せばだいたい母さんにも話が伝わるから効率がいいんだ」 家族の会話が効率重視なのか。 「真矢の父さんって、無口なタイプなのかと思った」 「ああ、俺が話しかけても『そうか』しか言わない」 ……それで相談になるのか? 「父さんは、母さんとだけはすごくよく話すんだ。俺も少し無口な方だけど、サヤちゃんとだけはすごく会話するだろ?多分そういうところ、父さんに似たんだと思う」 「へぇ?」 オレとは本当によく話すから最近はちょっと忘れがちだけど、真矢の無口は『少し』とは言いがたいレベルだ。 カズなんか真矢の事を『仏像』と呼んでいた。 まだ真矢に聞いてみたい事が色々あった。 だけど、駅に響くベルに列車の到着と二人きりの時間の終わりを告げられてしまった。 ◇

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