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2-ほうほう?[素人なのか]
そもそもの始まりは、一年くらい前だったと思う。
地方のそこそこなレベルの公立高校だと、ちょっと派手な格好で夜遅くまでフラフラ遊び歩いているだけで不良扱いされる。
自分の認識じゃぁ、ちょとヤンチャ……くらいなモンだと思う。
顔は少しキツくて派手ではある。
目が大きくて目ん玉が明るい色だから瞳が目立って、チーターとか黒豹とか肉食獣みてぇだとかって言われる。
髪だって派手に見えても地毛が明るいからニュアンスでライトカラーを混ぜてるくらいだ。間違ってもヤンキーな茶髪じゃない。
なのに、気弱なヤツだとオレが後ろに立っただけでビクついたりすることもある。何もしねぇって。
もちろん、絡まれればケンカをする事もあるが、自分からケンカを売る事もないし、カツアゲもしなけりゃ変なものを転売したりもしていない。
キツい顔だがそこそこモテてるとは思う。ただ派手な女しか寄ってこねぇ。
オレとしてはバカ騒ぎするのは友だちだけで充分で、オンナは落ち着けるヤツの方が好みだ。
需要と供給があってない気がするが、言いよられれば悪い気はしないのでとりあえずつき合って、なんとなく別れたりしてる。
クラブなんかは、一回顔を出してもう行かなくなった。
地方都市のクラブもどきは粋がったDJ崩れやおしゃれぶって頑張りすぎなやつらばかりで、痛々しくって寒々しい。
友だちのかぁちゃんがやってる店でダラダラしたり、繁華街の公園で騒いだり。
いつも何をしてんだ?って聞かれても思い出せないけど、まぁ、賑やかに遊んでる。
大して勉強しなくても成績は中の下ぐらいはどうにかキープでできてるし、高望みをしなきゃ進学もどうにかなりそうだ。
試験前日にちょろっと勉強をすると、授業を聞いてないようで意外に聞いてるんだなって、人間の能力の可能性ってヤツを感じる。
そう、試験前日に勉強をする奴は不良じゃない。
……と、オレは思っている。
夜、家に帰っても母ちゃんが帰ってきてない事が少なくない。ていうか、週の半分以上はいない。
仕事が忙しいのにくわえて1〜2年前に彼氏ができた。
仕事関係の男のようだ。隠してるつもりみたいだが、オレだってさすがに気付く。
とはいえ完全プライベートとなると二週間に一回会えるかどうかって感じみたいだ。
隠さずに堂々とデートして来いよって言ってやりたいけど、そんなこと言うほどゆっくり顔をあわす事もない。
母親が家にいればついつい自室に引っ込んでしまう。
まあ、このトシゴロの男子はだいたいそんなもんだろう。
キッチンのテーブルの上にはコンビニ限定のカップ麺と母ちゃんのメモ。
『夕食失敗した。ごめん。おにぎり冷凍してる!』
交流はないが、まぁまぁ暖かい家だとオレは思っている。
オレからの連絡はテーブルの上に置かれたボイスレコーダーにしている。
字が汚くて読めないからと、ずっとコレだ。
コレも今じゃ10日に1回くらいしか使っていない。
何となく再生ボタンを押してみる。
『言われてた集金の金額間違ってたぞ。立て替えといたから不足分置いといて』
気の抜けたオレの声。
普段友だちと話すときより随分子供っぽいんじゃないかと思う。
たまにこうやって自分の録音を聞いていた。
まるで家族の繋がりを確認するみたいに。
一人じゃない……。
そう思いたかったのかもしれない。
自分の部屋でカップ麺をすすりながら、録画していたアニメを観る。
ネットで観ることもある。
必ず1〜2本は見ないと寝れない。
もう、習慣化している。
同じものを繰り返し観ることはあまりない。
ハマって観てるものもあれば惰性で観ているものもある。
適当に録画して、初回面白ければ続けて録画。
単なる習慣だからこだわりもない。
けど、萌えキャラがきゃいきゃいしてるだけのものは無理だ。
逆に設定が小難しいSFやファンタジーものも苦手だ。
脳がリセットできればそれでいい。
けど、今期はあまり見続けたいと思うものがなかった。
録画のストックも切れたんで、しょうがなくネットで適当に探すことにした。
そして、動画サイトで予告編のようなものをみつけたんだ。
……これはアニメじゃなくてゲームだな。
絵は少し可愛すぎるけど、本格的なムービーだったし気になった。
サイトに飛んで、ぼーっと世界観やキャラ紹介などをみる。
再生ボタンが目に入ったのでキャラのサンプルボイスも聞いてみた。
主人公とメインキャラ4人。
順番に聞いて一人だけ気になった。
可愛い系の男のキャラだが、やたらとかわい子ぶって鼻につく。
ねちっこい声もイライラするし下手だ。
『ボクのこと、ホントに信じてくれる?』
イライラしながら何度も聞いてしまった。
そうじゃないだろう!
もっと、こう、ナチュラルな方がこのキャラの良さが出るはずだ。
やった事もないゲームの声にダメ出しをするオレ。
何をやってるんだ。
そう思って、サイトを閉じようとしたとき、そのゲームのパート2制作のバナーを見つけた。
ついついいクリック。そして制作情報を見て驚いた。
こんな本格的なサイトなのに、どうやら素人のつくったものらしい。
しかも、声をあててくれる人を募集していた。
そうか、アレは素人だったのか。
何となく合点がいった。
しかし、あのキャラ以外はそんなに違和感はなかった。
素人でもあんだけやれんだな。
感心した。
このゲームのパート2のキャストの募集はとっくに終わってる。
けど。
「ボクのこと、ホントに信じてくれる?」
思わずセリフを口にしていた。
オレの方がイケてる気がする。
ボイスメモで録音してみた。
『ボクのこと、ホントに信じてくれる?』
……ちょっと違うか。
もうすこし、子供っぽく。
『ボクのこと、…ホントに信じてくれる?』
すこし、やりすぎか?
いや、もう少し高い声音にすれば……。
『ボクのこと、…ホントに信じてくれる?』
いい!
ぜってぇオレのほうが上手い!
このキャラのイメージに合ってる。
絵を見ながらボイスメモを再生すれば、聞こえてくるのは可愛い系の少年声。
自分の声の録音は聞きなれてるはずなのに、絵を見ながらだと自分の声のような感じがしない。
そしてオレはこの『遊び』にハマってしまった。
いろんなゲームのサイトを巡っては、自分の声に合いそうなキャラのセリフを読んで録音するんだ。
だいたい無邪気な少年とか、眼鏡でおとなしめのゆったりとした雰囲気の青年キャラが多い。
実際の自分とは真逆のキャラだ。
だからこそ、声がキャラにハマったときの達成感がある。
いい感じに演 れるまで試行錯誤するのも楽しい。
サンプルボイスがついてるときはそれと聞き比べて、自分勝手に勝った負けたと勝敗をつけたりする。
そして自分より上手い人の真似をして、自分なりのものにできると嬉しい。
イケメンキャラのドスのきいた声なんかもやってみたけど、普通過ぎてつまらなかった。
街でぎゃぁぎゃぁ騒いだあとに、家で一人こんなオタク臭い遊びをしてる。そんなギャップも可笑しかった。
オレにとっちゃあ、どっちも楽しい。
けど、そんな遊びを始めてしばらく経ったころ、最初に見たゲームのパート2が出て、またあの鼻につく声のヤツが出ているのにイラッとした。
こんなヤツ使うくらいならオレの方がマシだ。
イライラが収まらない。
頭の中で制作者にメール作成している。
−−オレのほうがマシだ。
−−次つくるなら、オレを使え。
もちろん、本当にそんなアホなメールは出さない。
けど、そのイライラを原動力に声優募集をしているゲームを探してみた。
探せばちらほらと出てくるが、だいたいは女を募集している。
それでもいくつか男性の募集はあった。
女性向けのゲームがほとんどだ。
なんだかキラキラした男性キャラが多い。
ちょっとえげつなさそうなのもあるな……。
そうか素人集団だけど、プロの声優を使ったゲームを制作、販売してるところもあるのか。
勢いづいてしまったオレは、今まで遊びでとってた録音を参考に、父ちゃんの遺品の機材を部屋に持ち込み、PCにつないでサンプルボイスをつくった。
父ちゃんは音楽好きが高じてセミプロ的に活動していたから、機材は本格的だ。
一緒に演奏して録音したのがちょっとなつかしい。
けどオレは使えるってだけで、機材の役割をちゃんと理解してるわけじゃない。
音楽用の録音機材でいいのか、その辺りからすでにわかってないけど、ボイスメモを取り込むよりはマシだろう。
さらに勢いに任せていくつか応募してみた。
勢いに任せて……とはいえ、それなりに選んではいる。
素人臭すぎるところはパスだ。
なんか怖い。
ちょっと不安なのはエロいのも含まれてるってことだけど、女じゃないからそんな喘いだりとかはないだろう。
……ていうか、そもそも採用されるわけがない……気がしてきた。
まあ、いい。
送っただけでかなり満足した。
ホントに採用されても困るしな。
そして満足したオレは、応募した事自体をキレイさっぱり忘れてしまっていたのだ……。
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