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3-おお!?[キタ!]

PCを立ち上げ、メールに気づいた。 1週間くらい前に勢いで応募したゲームの制作者からだ。 随分早いなと思ったけど、送ったのが確か閉め切り当日だった。 『今回は残念ながら……』 不採用。まぁ、そんなもんか。 次作でイメージに合うキャラがいれば是非声をかけさせて欲しいなんて書いてあるが、社交辞令だろう。 勢いで応募しただけだし、初めからダメだと分かっていたつもりでも、断られるとショックだ。 何がダメだったのか考えてみた。 ……。 まあ、ゲームの事なんか何も分からないで『募集』ってとこだけ見て応募したんだから当然か。 あらためてそのゲームの告知サイトを見てみた。 BLゲーム……。 BLってなんだ。 よくみたら、恋愛ゲームっぽいのに主人公も相手も男だ。 そういえばゲームのサイトを巡ってるときに時々こんな男同士のもけっこうあったな。 これがBLなのか?文字では見てたけど、意味を考えた事がなかった。 総攻めってなんだ。 恥ずかしそうな顔で男のキャラがいちゃついているイラスト。 オレが応募した時はこんな絵はなかったぞ。 トップにある学園ものっぽい絵とキャライメージだけだったはず。 オレ、こんなのに応募してたのか。 その制作者が過去に制作したのも同じくBLものだった。 でも、絵もHPもキレイだ。 キスキーンの絵なんかもあるけど、まあ、ゲームのイラストだしリアルな男同士ほどは引かない。 ただ、全面モザイクの上に『お楽しみ!』とか書いてるのは……エロいのか? 声がついてるのは前作だけだけど、サンプルボイスのセリフもそんなヤバそうな感じではない。 男性向けエロだとサンプルボイスもえげつないのあるからな。 ……勢いで適当に応募してしまったけど、他にもBLと書いてたのがあった気がする。 女性向けでもムリじゃない絵のものを選んではいたけど、必ず可愛いキャラがいるから男同士かどうかまで気にしてなかった。 ファンタジーだとか、学園ものだとか、そんなとこしか見てない。 しかも、女性向けにはそんなエロいのはないだろうと、R18でも気にせずに送ってしまった。 とはいえ、採用されるわけはない……。 いや……でも。 履歴を確認すると、応募したのは7本。 応募をしたサイトを再確認すると、R18が1本で、BLが2本、R18BLが1本。 本当に手当り次第に送ったんだなオレ。 R18に送るとか……うっかり採用されたら『迷惑かけてすみません』だな。 まあ、いい。採用されるわけない。 その後、いくつかのサイトから予備連絡が来たりした。 指定されたセリフを録音し返信してほしいというのもあった。 ガラにもなく緊張する。 さらに数日後、また連絡が来た。 採用だった。 女性向けゲームで、最初は癒し系だけど実はちょっと影のある男性キャラ。 心臓が止まるかと思った。 採用されるとこんなに嬉しいのか。 と同時にちょっと怖くもなった。 HPをあらためて見てみると、ほんとにちゃんとしている。 素人以下なオレが、こんな玄人裸足のゲームに出ていいんだろうか。 何度かメールでやり取りし、シナリオをもらった。 こんないっぱいセリフがあるのか!と思ったけど、少ない方らしい。 自宅で録ったものでも音質に問題はなかったみたいだ。 安心した。 いくつかのセリフに直しや変更が入って、それをまた送って。 そんなやり取りも楽しかった。 ただ、制作のふーにゃんとかいう女のメールの顔文字はうざかった。 やたらと『サイコウですぅ!!!』の一言ですます。 具体的に何がどう良かったのか教えて欲しい。 全く参考にならない。 そして一つ困惑したことがある。 応募の時に名前を聖夜(まさや)の読みを変えてSEIYAで送ったつもりだった。 なのになぜかSAYAになっていた。 応募のとき慣れないメールで書いたり消したりしたせいなのか、打ち間違えか。 とりあえず名前はそれで通す事になった。 それからしばらくして、また採用の知らせが届いた。 BLゲームだった。 ……R18じゃなくて良かった。 今度は弟系の小悪魔キャラだ。 ゲームはかなりチャラチャラしてるのに、メールの文面はちゃんとしていた。 やり取りもスムーズにいった。 オレを採用した理由をメールで尋ねると、演技が一定レベルに達しているということと、声質と、()の良さだと教えてくれた。 ゆったり話し、()がきちんと取れているように聞こえるのに、トータルのセリフの時間は長くないのがいいらしい。 ……細かく教えてもらったが、よくわからない。 そうか……。としか言いようがないが、うれしい。 それからさらに二ヶ月くらいして、最初に不採用となったサイトからメールが来た。 ボイスアプリに出てくれないかとの事だった。 ちょっと名前の知れた人を使うことが多いけど、今回は制作の一人がオレを強く推したらしい。 エロめなセリフもあるらしいが、オレの声を気に入ってくれたと言うのが嬉しくて、よくわからないまま即OKしてしまった。 キャラのイラストがあって萌える言葉を言う。ユーザーはただ聞くだけ。 それがアプリとして成立してるのかよくわからないけど、そこそこ需要はあるみたいだ。 この頃から、ほんとにちょっとづつだが、以前採用されたゲームサークル経由で、知り合いが作るゲームのキャラの声をやってくれないかなどと頼まれたりするようになっていった……。

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