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4-のわっっ![消音!消音!]

声の依頼があれば夜遊びもほんのちょっとだけ控えめになり、友だちは急に付き合いの悪くなったオレを我がままなオンナに振り回されてるなんて勝手に噂していた。 ……まあ、ある意味アタリだ。 『大変申し訳ありません!!!!』 というタイトルでしばしば追加と録り直し要求してくるヤツがいる。 録り直しは気にしちゃいないけど、早く仕上がりを見せて欲しい……とは思う。 ていうか、超楽しみにしてんだ。 色んな作品に参加し始めてから数ヶ月経ったけどまだゲーム2本しかリリースされてねぇ。 初めは「なんだコレ」と思っていた、歯の浮くようなセリフにも免疫ができてきた。 口説きたいオンナができたらかなり役立ちそうだ。 初めは言われた側が引いたとしても、言われ続ければメロメロになる。 実際オレも……。 「はぁ……。アメーディオさま……」 最初に採用されたゲームの攻略キャラにメロメロになっている。 オレのやったキャラよりも、ずっと男らしくて強引なのに不器用で。 ああ、くそっ。 はじめ嫌なヤツだって思ったのにキュンキュンくるなんてテンプレすぎんだろ。 しかし、間違いがないからこそのテンプレなんだ。 こんなキラッキラのイラストなんて普通だったら受け付けないのに……。 アメーディオ様……ううっっかっこいい。 また、この声がいい。 ふざけたトーンと、押し殺したような切ない声と、すごく表情が豊かだ。 これ、ホントに素人なんだろうか。 仕事のないプロが経験を積む為に……とかいうのもあるらしいしな。 寝る前にクリア特典の声を聞く。 『おやすみ、俺のエンジェル。今日も夢の中に君をさらいに行くから。いい子でまってろよ?……ちゅっ』 はぁ……。 これをヘッドホンで聞くと、本当に口づけられてるみたいに耳元がくすぐったくなる。 ……たまらない。 オレがやったのは癒し系だが影のあるキャラ。クリア特典では暗い声じゃないけど……。 『今日も一日お疲れさま。ゆっくり休んでください。大丈夫。あなたが夢の国に旅立つまで、そばにいますよ』 オレ的にはちょっと微妙だ。 寝てるの見られるとか気持ち悪くないんだろうか。 好きな人なら嬉しいのか? まぁ、制作の顔文字女は萌えたらしいからいいけどな。 それからしばらくしてBLゲームもリリースになった。 こっちはパズルゲームを進めて、解放されたキャラシナリオを見ていく。 オレがやったのは弟系の小悪魔キャラのキリト。 生意気だけど、結構可愛い。 ゲーム内でキリトの声を聞いてもやっぱりあまり自分の声って感じがしない。 このゲームのキャラ攻略を進めていて、途中でハッと気がついた。 このツンデレ不良キャラの大地……もしかして……アメーディオ様っっ!? さいしょ「このクズが!」とか、酷い言葉ばかり言われてたから気付かなかった。 でも、デレてきたら……この甘いトーン、アメーディオ様っぽい! キャストの名前を急いでチェックした。 どっちも『山田(やまだ)(りき)』だった。 やっぱりそうだ! 大地はアメーディオ様だ! いや、こっちのゲームでは別のキャラだ。ちゃんと切り離して考えねぇと。 なんて思いつつ、しっかり大地にもハマってしまった。 『オマエを傷つけていいのは俺だけだと言っただろう。だから、俺がずっとお前を守ってやる』 けっ。何言ってやがんだバカが! 心の中で毒づきながら、顔はニヤニヤしてしまう。 我ながら気持ち悪い。 ちょっとゲームキャラにハマり過ぎた。 頭を冷やす為に友だちと遊びに出れば、つまずいたアホな友だちにすっと手を差し伸べたり、優しく体調を気づかうような言葉が飛び出したり、乙女ちっくなゲームの世界に染まっている自分に気付く。 いや、まあ、気遣いができるようになるってことはいい事だ。 たとえそれが乙女ゲームに感化された結果だとしても。 友だちはオンナに感化されて優しくなったと思ったみてぇだ。 「我がままなカノジョとはどうだ?」 なんて聞かれると、否定するのもめんどくさくて、 「いい感じに続いてんよ」 とかテキトーに答えてる。 「カノジョどんな感じ?」 なんてざっくりした質問には、 「いじわる言うかと思えば甘いこと言って、けっこう表情豊かで楽しいよ」 なんて、ツンデレ大地とアメーディオ様をごちゃ混ぜにして答える。 オレは結局ゲームから離れられないらしい。 それでも数日ゲーム画面を見なきゃちょっと頭が現実に引き戻されて、アメーディオ様のイラストを見ても、 「だから、こんなキラキラは……ないだろ?」 なんて思うのに、ボイスを聞いてしまうと 「はぁ…アメーディオ様……いいっっ!」 と、またドハマりしてしまう。 そんなこんなでボイスアプリもリリースになった。 キャストにアメーディオ様をやった山田(やまだ)(りき)の名前がないのは分かっていた。 なのに山田力だったらどんな風に言うんだろうとか、このキャラが山田力向きなんじゃないかなんてそんな妄想をしてしまう。 ついつい山田力が出ているボイスアプリはないか探してしまった。けど、見つからない。 名前で検索すると関係のないサイトばかりヒットしてしまう。 ヒットが多すぎるのも困りものだ。 それでも、山田力に関連あるサイトをどうにか2つ見つけられた。 一つはゲームで、もう一つは音声の投稿サイトだ。 HPを作ってる人も結構いるみたいだけど、山田力はHP、ブログ、ツイッターなど一切やっていないようだった。 もしくはやっていても別の名前でしているのかもしれない。 なんでか知らないが名前を使い分けているヤツも結構いるみたいだしな。 投稿サイトには音声をいくつか置いていたけど、最近はまったく利用していないようだ。 そして、ゲーム。 こっちは、有料のR18BLゲームだった。 有料、そしてR18。 そうなるとさすがにゲームには手を出せない。 せめて内容だけでもと、紹介ページを読んだ。 そのゲームで山田力がやっているのは、主人公に対しずっと親友としてふるまっていたけど、ある事件をきっかけに我慢をするのをやめた……。 そんなキャラらしい。 このサイトにもサンプルボイスがあった。 R18というのが引っかかる。 けど、オレの中に聴かないなんていう選択肢はなかった。 いきなりスゲェのだったらどうしよう……。 ドキドキする。 《おはよ。…》 のボタンをクリックすると 『おはよ。何だその顔。また変な夢見たのか?』 明るい声が聞こえてきた。 拍子抜けだ。 R18っていうから、どんだけヤバいセリフなのかと思ったけど、スゲェ普通。 『変な夢〜』のくだりがなければ毎朝聞きたいくらいだ。 そして主人公を気づかうようなセリフのサンプルボイスがもう1本あった。 R18つったって、やっぱ女性向けだとこんなモンか……。 ちょっと、ほっとしていた。 そして 《なんだよ。…》 と書いてあるボタンをクリック。 思わず息をつめた。 クチュ……っという、湿り気を帯びたイヤらしい音。 『ははっ…なんだよ。そんなにコレを……ブチ込んで欲しかったのかよ?こんな……自分からイヤらしく腰振って。……淫乱』 生々しい音とSっ気の強いセリフに頭が真っ白になり、慌てて消音ボタンを押した。 混乱とよくわからない緊張で汗がにじむ。 な、なんだこのセリフ……。 ……いや、まぁR18だけど。 片手で口元を押さえてしばらく動けない。 ロマンティックな夢の世界の住人に、急に雄な部分を見せつけられた気分だ。 部屋の中を見渡してヘッドホンを探す。 家には今一人しかいないけど、部屋の扉にも鍵をかけた。 ヘッドホンを装着して、震える手でまた再生ボタンを押す。 『ははっ…なんだよ。そんなにコレを……ブチ込んで欲しかったのかよ?こんな……自分からイヤらしく腰振って。……淫乱』 耳元で、さっきよりもさらに生々しく声が聞こえる。 まるで直接オレに言われてるみたいだ。 ――ちがう……オレはそんなこと……。 必要のない言い訳を思い浮かべる。 混乱したまま三度繰り返して聞いてしまっていた。 そして次のボタンへカーソルを合わせる。 《…おまえの…》 クリックすると、こらえるような吐息が聞こえてきた。 『はぁ…お前の中……すげぇ、きもちイイ……はぁっ…んっほら、お前のコレも気持ち良くってたまんねぇって、雫垂らしてビクビク震えてる。ヤラしいカラダだな』 耳元で紡がれる喘ぎまじりの声に身をすくませる。 ヘッドホンの中の音の振動で、直接吐息を耳にかけられてるみたいだった。 はっ…はっ……。 自分の息が浅くなってるのにも気付けなかった。 しばらく身じろぎもできずにいたが、ゆっくりとまた再生ボタンにカーソルを合わせる。 恐る恐るボタンを押した。 『はぁ…お前の中……すげぇ、きもちイイ……はぁっ…んっほら、お前のコレも気持ち良くってたまんねぇって、雫垂らしてビクビク震えてる。ヤラしいカラダだな』 目を瞑って声に集中する。 ゾクゾク……背中を何かが駆け上がる。 『お前の中』って、完全にヤって……るんだよな。 また、再生した。 『きもちイイ…はぁっ』の吐息に、耳をくすぐられ何度もビクンと肩が跳ねる。 『ヤラしいカラダだな』なんて自分が言われてるみたいで言い訳したくなってしまう。 ……アンタの声がヤラしいのがいけないんだ。 耳が熱い。頭がぼっーとなって、さっきからずっと胸がドキドキしている。 ゆっくりと目を開ける。 これはヤバい。 男の声に……なに夢中になってんだ……。 肩の力を抜いてはっと気付く。 いつの間にか自分の股間に手をやっていた。 何やってんだオレ! まずい。このサイトはダメだ。 山田力……くそっロクでもないゲームまで引き受けやがって。 他もこんなのやってんじゃないだろうな。 ……他も……。 いや、何考えた?もう検索はしない。 どうせろくな情報は見つからない。 ……いやいや、そうじゃない。 だから、山田力のエロい声なんか聞いてどうする。 オレはアメーディオ様とか大地くらいで充分だ。 いや、充分てなんだ。 だから…男の声に…男の……。 ああ、もう、良くわかんねっ! クソっ!こんなクズみてぇなサイト、もう二度と見るもんか! 乱暴にPCをシステム終了させてベッドに寝転ぶ。 『ははっ…なんだよ。そんなにコレを…ブチ込んで欲しかったのかよ?………』 そんな声が脳裏に浮かんで、ガバッっと勢いよく起き上がる。 「くそっ!くそっっ!山田っっ!なんなんだよアイツ!節操なさすぎなんだよっ!」 オレはわき上がる衝動を、怒鳴り声で散らした。

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