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20-むちゅむちゅ[蹴飛ばされても文句は言えねぇ?]2

「……ん?鏡見てたら……って、もしかしてさっき俺が『なに変な顔してんだ?』って言ったせいで落ち込んじゃったのか?」 おもわずキュッと口を引き結ぶ。 その通りだけど『そうだ』とは言いづらい。 でも、桐田は表情だけで察したみたいだ。 「ごめん。俺まさかサヤちゃんが容姿を気にしてるなんて思わなかった。だって、俺なんかよりずっとイケメンだし」 慰めるようにオレの髪をすく。 『俺なんかよりずっとイケメンだし』という言葉を意外に思った。 けど……駄目だなオレ。桐田にイケメンとか言われても、ちっとも嬉しくない。 というか、むしろ嫌だ。 床に座るオレの前にしゃがんでる桐田の肩に、コテンとひたいをつける。 「イケメンとか言うな。嬉しくない」 「そう……なのか?難しいな。うん。サヤちゃんはキレイだ」 「……キレイ……なんかちょっと違う気がする。けど、少しうれしい」 いや、キレイという言葉が似合うのは清潔感の固まりみたいな桐田の方だと思う。オレはともすれば下品になりがちな派手顔だ。 「たしかに、ちょっと違うかな。サヤちゃんはやっぱり、可愛い」 思わずニヘ……っと、ほほを緩めてしてしまった。 やっぱりオレはこう言われるのが一番嬉しいらしい。 「うっっ…‥か……かわっっ……くぅっ」 なんか桐田が苦しみだした? 「やっぱ、オレの顔、変?」 「変じゃないよっっっっ!可愛いって!可愛いすぎだって!変とかありえないから!はぁ……もう、サヤちゃんが可愛いすぎるのがいけない」 すっと顔が近づき、唇に暖かな感触が。 チュッとしただけの本当に軽いキス。 完全に不意打ちで、首まで真っ赤になってしまった。 キスくらいで、いきなりふわふわと雲の上に乗せられたような、こんな感覚になるなんて初めてだ。 また桐田が顔を寄せる。 でも、今度はなかなかキスしない。 『なんで?しないの?』そんなオレの表情を確認し、ちょっと微笑む。 そして、ゆっくり優しくキスをされた。 ……なんか、ズルい。 オレに期待させて、ちょっとじらして。 もうちょっとで『はやく』って言ってしまうとこだったじゃねぇか。 それにしても……。自分からキスするときもドキドキするけど、されるのを待ってるのって、もどかしくって息もできないくらいドキドキするんだな。 「ん……」 ちょっとだけ深いキスをされた後、(ついば)むようなキスを繰り返され、唇が甘く痺れた。 ああ……困った。深いキスより頭ん中がピンクになる。 ……あれ?いつの間に抱きしめられてたんだろ。 身体が熱い。 そして全身が心臓になったみたいだ。 「んぁ………ん……」 鼻から抜けるような声が漏れてしまった。 桐田が唇を離して、うっとりとした目でオレを見てる。 多分オレも同じ表情をしてるんだろう。 けど、唇を離されたのが寂しい。 「もっと……」 思わず言葉にしていた。 間髪入れずに桐田の唇がオレの口を塞ぐ。 「あふ……ん」 軽く舌で唇を舐められる。 オレは桐田の舌先を軽く吸って受け入れた。 「ん…………」 鼻の奥がツンとした。 なんか、泣きそうだ。 これって、まさか……幸せすぎて泣いちゃう……とかいうヤツ? 涙が溢れるのはぐっと(こら)えたけど、心の震えまでは止められない。 「はぁ…んぁ………ん……」 さっきより、濃厚なキス。 自然と桐田を抱きかえし、すがるように背中をなでていた。 キスの合間に『はぁ…はぁ…』と互いの息が混じる。 桐田もオレと同じくらい興奮している。その事が嬉しい。 「あふ……ぁんん」 「サヤちゃん、キスでも声が出ちゃうんだね」 ああ、もう……そういうこと言うなよ、恥ずかしいって。 でも、今まではこんなじゃなかった。 「真矢のせいだ」 「俺の?」 「真矢が電話でオレが気持ちよくなってる声聴きたいとか言うから。すっかり喘ぎ癖がついたのは、真矢に聴かせたくてだから……だから真矢が悪い」 「……!サヤちゃん」 深く激しく口づけられる。 「んぁ…ん……んぁ…はぁ」 鼻から抜ける声も、エサをねだる子猫のように甘えた音色になっていく。 困った。声が出ると、だんだんエロい気分になってしまう。 キスだけ……キスだけだから。 温かくからみつく舌にトロリトロリとなでられる、受け身のキスにゾクゾクと快感が走った。 「ふぁ……」 やんわりと舌を噛まれ、口内を舌で愛撫されて唾液があふれそうになる。 「ぁふ……真矢……んぁ…真矢ぁ」 キスだけでツクンツクンと体が疼き、火照って汗ばむほどだ。 学校で、これ以上はマズい。 でも、もうちょっとだけ……。 けど、さっきまでオレを求めるように撫でていた桐田の手が、だんだんなだめるような動きになってきた。 わかってる。 もう、戻らないと授業が始まる。 オレはともかく、桐田はサボりなんかありえないんだろう。 ちゅ……音を立てて唇がはなれた。 さびしい。 桐田の首元に顔をうずめる。 けど、あごを持ってそっと顔を上げられた。 なに?目線だけで聞く。 桐田がオレの鎖骨のあたりに顔を埋める。 ちょっとだらしなく緩んでるネクタイをさらに緩めると、三番目のボタンをサッと開けてキスをした。 「つ……」 チクッとするような小さな痛み。 顔をはなして桐田が確認するようにそこに指をはわす。 「何?」 「マーキング」 「え?マーキングって?」 「サヤちゃんが俺のだって印をつけたんだよ」 「あ……キスマーク?」 「そう」 ニコッと桐田が笑う。 普通に服を着てれば見えない位置だけど、なんか恥ずかしい。 でも、桐田の独占欲が嬉しくてたまらない。 そして、オレもつけたい……。 けど、時間も無いし小さな羞恥心に負けて言い出せなかった。 ◇ 二人で階段を降りる間だけ手をつないだ。 けど、どうしよう。 教室に行くまでに二人の間のこの浮かれた空気を消せそうにない。 ピンクのオーラも出まくってるに違いない。 せめてもの抵抗……というか、変に詮索を受けないために、廊下はちょっと距離をとって歩き、別々のドアから教室に入った。 「あれ?聖夜またなんかいい事あった?」 オレの浮かれっぷりはフー太に速攻気付かれてしまったけど、桐田と関連付けまではされてない。 「ま、ちょっとな……。てか、かなりな」 「え、なになになに〜?」 「教えねー」 「なんだよケチ!昨日相談にのってやっただろ〜」 「おう、それは感謝してる。けど、な〜い〜しょ〜」 「のわっ……なにかわい子ぶった声出してんだよ」 「ま、そんな気分だってことだ。おら、授業始まるぞ」 チラッと桐田に視線をやって、デレた笑顔を大盤振る舞いする。 ううっっっ。こんなハッピー気分で授業を受けるのは初めてだ。 それはそれで、やっぱり授業が耳に入らないけど、しょうがないよな。

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