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27-ムチムチッ?[鞭の血?無知の知!]

真矢がウチに来て、オレは真矢の事を何も知らないってことに気がついた。 これまではただ真矢との甘い関係にのぼせて、細かい事は気にせず甘えてばかりだった。 けど、ウチに来た真矢は、通話でオレをメロメロにした真矢……だけじゃなくって、学校で見る『秀才ヤロー桐田真矢』でもあった。 同一人物だから当たり前だ。 だけど、オレはそのことをイマイチよくわかってなかった。 礼儀正しく、真面目でキッチリしている。 それはもう、オレの想像を絶するほどに。 真矢は年のわりにはちゃんとしてる……って程度なのかもしれない。 けど、オレが礼儀とかそこら辺、特にいい加減だから、ちょっとキッチリしたとこ見せつけられるだけですごくビックリしてしまう。 そうやって考えてるうちに『桐田真矢』に関して、オレはあまりに知らなさ過ぎるって事に気付いてしまったんだ。 ドコに住んでいて、ドコの中学出身で、友だちで一番親しいのが誰で、今まで恋人がいたのかとか……。 クラスでちょっと親しい奴なら知ってそうな事を何も知らなかった。 まあ、逆にちょっと親しい友だちレベルじゃ絶対知らないような事だけはイッパイ知っちゃってるけどな!!! 真矢と正式に恋人ってことになって、その恋人のことをあまりにも知らな過ぎることに、只今、絶賛落ち込み中だ。 いや、正しくは授業中だけど。 まあ、授業中くらいしか落ち込む時間がないんだ。 けど同一人物だってちゃんと認識すると、ちょっと気になる事が出てきてしまった。 オレ『秀才ヤロー桐田真矢』のこと……好きか? どちらも真矢なんだし、分けて考える必要はない。 そんな事はわかってるけど……。 真矢に『オレの好きなとこ、三つ言えるか?』なんて質問をした。 オレは言えるか?『秀才ヤロー桐田真矢の好きなとこを三つ』。 ふっと情景が浮かんだ。 一年のときだったか。 『学校に感謝!』とかいって、学校の校舎以外の部分を清掃するイベントみたいなもんがあった。 オレやフー太たちはダラダラサボってふざけてるだけで、当たり前のように掃除なんてしてなかった。でも、掃除道具だけは片付けなくちゃいけなくって。 たった竹箒三本、集合場所にある回収場所に持ってくだけなのに『オマエが持ってけよ』なんて押しつけ合ってた。 今思うと、何をそんなにイヤがってたのか、さっぱりわからない。 そこに通りすがりの真矢が、オレ達には目もくれず、両手にいろいろ道具持ってるのにさらにその竹箒を無言で持ってった。 掃除道具を持って行ってもらったにもかかわらず、ガキ臭いオレらは『何だアイツ気取ってやがる』みたいな事をグチグチ言ってたっけ。 けど、本当は内心『ちょっと大人な対応でカッコ良くないか?』……なんて感心してたんだよな。 あ、そうだ。スポーツイベのときに、バスケでラスト一本って時に、真矢が囲まれて動けなくなってた味方のボールを強引に奪って3Pシュート決めて……。 決めたはいいけど、味方のボール奪ったから『何だアイツ……』みたいなコト言われてた。 けどオレは『俺が責任取るみたいなカンジでちょっとカッコ良いな』なんて思ったっけ……。 それから……あ、歌。 まだ真矢の声をほとんど聞いたことなかった時で『いっつも無言だから声出してんの自体珍しい。あいつ声出るんだな』みたいなふざけたこと言われてたけど、歌声もめっちゃいい感じのベルベットボイスだった。 そこそこ上手かったし、レッスンとかしたらメチャ上手くなるんじゃないかなって、オレうっとりして聴いてた。 それから、授業中も結構難しい質問で誰も応えられないと、だいたい真矢に質問が振られて、そこを何でもないように答えるんだ。 あとで『アイツの出来ますアピールうゼぇ』なんて言われるけどオレは心の中で『さりげないカンジでカッコ良くねぇか……?』とか思って……。 ……って、真矢の悪口言ってるのいっつもカズじゃねぇか。 何なんだよアイツ。 真矢の事ひがみやがって。 クソッ。 今度関係ない事でシメてやる。 そんな事を考えていると、真矢が現国の教師に朗読を指示された。 オレはぱっと顔を上げて、教科書を読み上げる真矢を見つめる。 読み終わると真矢がオレをチラリと見た。 視線が絡む。 今まで真矢の事を考えていたから、勝手にドキドキと鼓動が早くなる。 そうだ……。 オレ、以前から真矢が朗読をすると何故か目がいってた。 たしか『秀才ヤロー桐田真矢』なんてのもカズが言い出した事だ。 『無口で、控えめぶってるくせに、出来ますアピールをしてくる奴』なんて……。 カズが言ってるだけで、オレは実際そんなこと思ってなかった。 むしろ。あれ? オレ、けっこう……。 カッと頬が熱くなった。 むしろ、カッコいいとか思ってたっぽくね? そんなこと……気にしたことなかったけど。 でも実際、思い出す印象は全部……カッコいい……とか思ってて。あ、走る姿勢はキレイだって思ってたんだよな。 それから……。 真矢の事、気にしてなかったはずなのに、何気なくフェンスに寄りかかってるときの横顔とか、ただ友だちと一緒に歩いてるだけの姿とか、授業中の真面目な顔とか、かつて目にした日常の中の何気ない姿がどんどん思い浮かんで来る。 当時は恋愛感情とか、そんなのじゃ無かったけど。 前からけっこう真矢の事、……好み……だったりしたのか? いや、わかんねぇけど。 でも、全く気にしてなかったなら、こんなに色んな真矢を思い出せるわけがない。 真矢の後ろの席の梶川に目をやる。 明るく爽やかなモテメンだ。 あんまりオレと絡むことはない。 とはいえ、親しくなる以前の真矢よりは話したこともある。 コイツのイケてるところを思い浮かべてみた。 爽やかな笑顔と、ちょっと気取った決め顔が思い浮かぶ。 なんとなく情景も浮かぶ……けど、コイツじゃエピソードは一切ついて来ない。 元々……。 きっかけ次第で真矢を好きになる素地がオレにあった……ってコト……なのか。 はぁ……。 胸の中に溜まっていく想いをため息にして吐き出す。 オレ……もう、ホント、真矢の事大好きだな。 うん。大好きだ。 バフッと机に伏せ、また大きくため息をついた。 顔がニヤつく。 なんでもいいからデカイ声で叫び出したい気分だ。 「有家川(うけがわ)なに派手にため息ついてんだ。ほら、読め」 急に現国の教師に名前を呼ばれ、顔をあげた。 けど当然、授業なんか全く聞いてなかった。 フー太が指示されてる箇所を教えてくれる。 詩だ。 大して長い文じゃない。 『声の趣味』をやりだしてから、教科書でも軽く下読みするクセがついた。 ナナメ読みしてから朗読をはじめる。 ざっくり言うと、少年が神社で妊婦を見かけ、生まれてきた道程とこれから生きて行く道筋について考えた……ってことらしい。 まあ、普通の詩だ。 今まで真矢の事を考えてたせいで、ヘラヘラしたトーンで読みそうになってしまう。 それじゃ、オレが浮かれ果ててるってことをみんなにさらすみたいで恥ずかしい。 ぐっと声を落ち着かせ読み進める。 けど、ほんの3行読んだところで『道程(どうてい)』という単語に引っかかってしまった。 声の調子を変えないように気をつけ読み進めながらも、頭の中じゃ……。 そっか……真矢初めてだったてことは『童貞』だったって事だよな。 つか、マジ童貞でアレはありえねーだろ。 オレがエロいだけみたいなこと言ってたけど、ぜってーそんなわけねぇ……。 マジで……もー、オレ……。 詩に関係ないエロい想像に走りそうになるのをギリギリでこらえた。 ゆったりとした調子で読み終わると、なんだか『はぁ……』っと、複数のため息が聞こえた気がした。 オレの朗読後、必ず視線をくれる真矢の反応を確認しようとしたのに、教師の言葉に邪魔をされてしまう。 「……有家川、オマエ、すごいな?」 「は???」 すごいな……なんて言っときながら、何がすごいのかも言わずに教師は授業を続ける。 なんなんだよ。 今度こそ真矢の反応を確認しようとしたのに、今度はフー太が 「聖夜(まさや)なんか、すげぇ気合入ってんな?」 なんてコソコソ声をかけて来る。 「は?なんだよ気合って」 顔を寄せて聞くけど、フー太はコツコツと教科書のオレが読んだ部分を示すだけであとは何にも言わない。 わけわかんねぇ。 真矢をチラリと確認したけど、すでに授業に集中していた。 くそっ。 現国教師ムカつく。 オレと真矢とのささやかな交流を邪魔しときながら、結局何を言いたかったのか全然わかんねぇし。 ……ていうか、オレが読んだあと真矢がこっちをみて軽く微笑むだけなのに、オレにとってはこんなに大切で楽しみな瞬間だったんだな。 オレはまた机に突っ伏すと、にへ……っと頬を緩めた。 このあと選択授業で教室移動があった。 カズやフー太、トモジなんかと話しながらダラダラ歩いていると、トンと軽く肩を叩かれた。 振り返ると、真矢だった。 こんな時に真矢が話しかけてくるなんて滅多に無い事だ。 なんだ……? ……まさか……またなんか怒らせた? ざっと血の気が引いた。 けど、真矢はちょっとイタズラな表情を浮かべて口を開く。 「さっきの朗読……」 「あ?うん?」 「すごくセクシーだった」 「…………っっはぁっっっ! ?」 意表を突く一言を放って、そのままオレ達を追い抜き、じゃあなと言うように手をひらひらさせて足早に階段を登っていった。 オレの横ではフー太達が腹抱えて笑ってる。 「だはっっっ。セクシーってたしかにっっっ!」 「なんかエロかったしっっ」 「いや、読むの自体もすげえ上手くてびっくりしたけど、なんかムードありすぎで、俺笑いこらえるの必死だったもん!!!」 「んなことねーだろっ!」 「いや、アレは……セクシ……ぷっっっ『セクシー』!!!」 「しかも、あの桐田にイジられるってっっ!」 「よっ!セクシー聖夜!!」 「うっせぇ。笑いすぎだ!」 文句を言ったところでバカな奴らの笑いはなかなか止まらない。 結局、目的の教室につくまで散々笑われてしまった。 教室の席は自由。 フー太が横に座った。 「本当に、ちゃんと桐田と仲直りできたみたいだな。よかった」 仲直りできたという報告を聞いても、本当に大丈夫なのか確認できるまで気にかけてくれてたようだ。 いい奴だ。フー太。 「ん。心配かけたな。でも、多分もう大丈夫」 「みたいだな。安心した」 「ああ。ラブラブだ」 「…………ラブラブなのか?」 「…………言ってみただけだ」 「まあ、桐田が聖夜に向かって冗談言うくらいだから、ラブラブっちゃあ、ラブラブか?」 へら……っとフー太が笑うので、オレもなんとなくへらっと笑ってみた。 その後、カズやフー太たちのオレへの『セクシー』いじりはいつまでも続き、結果、定番ネタとなってしまった。 真矢………… 恐ろしい子!!

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