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第1話 斗陽の想い
「だから、一緒に出かけよう」
「だからって何だよそれ。お前の日本語、変だから。何に対して、だからなんだよ」
「今日から連休でしょう」
「ああ」
「二人で出かけるのがそんなに嫌なの?」
「嫌とは言ってない。ただ、こっちの事情も考えてくれ。思い立って行動するのやめて欲しいんだけど」
「突然じゃないって、前から決めてたの。斗陽 はさ、いつも考えすぎなんだよ」
俺のせいだと文句を言う。違うだろそれ。考えすぎじゃなくて、俺の都合も考えてと言っているだけだ。それに俺に相談せずに勝手に決めたのはお前だろうと言いたくなる。
睦人 の機嫌が悪いのは俺が思い通りにならないからだろうけれど、そうそういつも都合良く人が自分に合わせてくれるわけじゃないと、学ぶべきなんだ。
「とにかく行かない」
「なんで行けないの?別に用事はないでしょ」
頭は悪くないはずなのに、どうして正しく聞き取れない。俺は行けないとは言わなかった。行かないといったんだ。可能性ではなく意志の問題だろ。
「だから、今日だけは一人じゃ駄目なんだよ」
また「だから」だ。
「俺には俺の予定がある」
長い付き合いだから簡単に意思疎通ができると言うわけじゃない。特に睦人はいつも自分が本当に言いたいことは隠して、こちらに察して欲しいという態度だ。
そう陸人の都合では動けない。それにしても今日はあきらめが悪い。
普段なら優先するが、今日は駄目だと自分に言い聞かせた。
「もう、いいよ。僕は勝手に出かけるから」
不機嫌な表情を隠すこともなく睦人はドアを大きな音を立てて閉めると出て行った。しんとした部屋に残りながら、俺にだって用事があるんだよと小声で呟いた。
人の気も知らないで、睦人は不機嫌この上ない。あいつとの付き合いが長い分、これが長引くこともよく知っている。
もしかしたら二人で一番過ごしたい日を一人で過ごす事になるかもしれない。
気まぐれな猫みたいなあいつの事だ、帰ってくるとは限らないと気が重くなった。
今日はどこへ行くとも言わないまま強引だった。いつもとは少し違ったかもしれない。何をしたいのかちゃんと聞いてやるべきだったのだろうか。
とりあえず用事を済ませたら電話をして、たまにはあいつの我侭 に少し付き合ってやってもいいか。
街は連休の買い物客で溢れている。雑踏の中に楽しそうに笑う声が聞こえる。その瞬間に寂しくなってしまった。一緒にここに連れてくれば良かったと後悔し始めた。
別に隠しておく必要なんかなかった。少し早いお祝いとして二人で楽しく過ごすこともできたのに。明後日は俺たちにとって大切な日。その日を独りで過ごすことになるのは避けたい。
小さくため息をつくと、俺は携帯を取り出して睦人の番号を呼び出した。
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