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第2話 睦人の想い
別に特別な日じゃない。解っている。単なる三百六十五分の一日。
でも恋人なら……この日の持つ意味は大きく違ってくる。
僕が斗陽に好きだと言ってもらえた日。僕の未来が開けた日、その日を二人で過ごす。付き合っているって事はそう言う事だと思う。
付き合いが長い分、今までそんなこと考えもしなかった。けれど二人で一緒に過ごして十年。今日こそきちんと想いを伝えたい。
片思いだと思っていたのに。諦めた恋だったはずなのに……まさか手を差し伸べてくれるなんて思いもしなかった。あの日。
それが十年前の今日。怖くて踏み出せなかった僕を見つけ出してくれた日。今でもあの時は忘れられない。
「どうして君が、こんな僕なんかと......」
「どうしてって?それ聞くかな。一世一代の告白なのに。もう一度言うよ。……好きです睦人」
「え……」
気がついた時には僕の恋愛のベクトルは同性に向いていた。初恋は幼稚園で出会った淳くん。そして、自分が他の子とは違う価値観だと気づいたのは小学生の時。それ以来隠して生きてきた。
誰にも内緒の片思い、それが僕の恋愛のデフォルト。
高校に入り出会った斗陽は鮮烈だった。口数が少なく冷たいようで、他人のことを考えて行動する。いつもはっきりと物を言う。間違いを恐れない強い心と自信に満ちた態度……そんな斗陽に惹かれるのに時間はかからなかった。そもそも出会ったその瞬間に心臓を射抜かれていただのだから。
避けられるくらいなら単なるクラスメート、それでいい。僕の恋は実らない……はずだった。
「俺のことよく見てたよね、でも視線が合うといつも逸らされて」
僕の気持ちはあふれ出て、いつの間にか斗陽に届いていた。
「気がついたら俺、睦人いのとこを目で追うようになっていて。俺と付き合ってください」
「だ、だって大隅君は……そのストレートでしょう」
「まあ、今までは女の子しか好きになったことは無いよね」
「……やっぱり無理があるよ」
「今までは、って言ったでしょう」
「......本気にしてもいい?」
「冗談を言っているようにみえる?」
「……」
「俺、かなり真剣。ふざけているように見えたら悲しいな」
僕の心臓は痛くなるほど早く鼓動を繰り返して、酸欠で倒れそうになって。言葉がでずに涙が落ちた。その日から、十年ずっと斗陽と一緒。
そんな日のことなんて、きっと斗陽は忘れてる。僕にとっては天地がひっくり返った日だったけれど。
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