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第3話 斗陽の想い 2
コールが一回、二回……。
電話に出てもらえないと不安になる。ぼんやりと、睦人のことを考える。思い出すのは十年前のあの日、忘れられない瞬間。
恥ずかしそうに俯く姿に心臓がきゅっと縮むような気がした。
「俺、まだ返事をもらってないんだけれど?」
俺の告白から二日たっても何も言ってこない睦人に業を煮やして、放課後呼び出した。
睦人は、目をまん丸にして、驚いたような顔をして俺を見上げている。
「えっ、その……あの……僕」
耳まで赤くなるその姿に俺のことが好きだと言っているようなものだとは思いつつも、ちゃんと言葉で聞きたかった。俺が押し切った形で付き合うなんてできない。
「きちんと聞かせて、睦人の気持ち。俺はもう伝えたから」
「す……き…です」
消え入りそうな声でまっすぐに顔を見ることもなく答える。思わず抱きしめて、ここが教室だということを思い出して慌てて離れた。
そうあの日、あれからもうすぐ十年。今までの感謝とこれからの約束を兼ねて、渡したいものもある。あいつはもう忘れているのだろうか俺たちの想いが一つになったあの日のことを。
だから今回だけは、今回だけ俺が折れることにした。
睦人、電話に出てくれ。今、どこで何をしているんだ。
結局、電話はつながらず留守番電話に切り替わった。メッセージは残さずに電話を切った。
睦人、何処へ行ったんだ。
仕方なく家へと向かう、ポケットの中の小さな箱を指先で確認しながら。
休日の電車は昼間だというのになぜか混雑していて、ドアの近くの小さな隙間に身を滑り込ませる。背中を電車の手すりに預けてドアにある窓から外をぼんやりと眺めた。
今日の夜、きちんと話をしよう。記念日にこだわる必要なんてなかったんだ。今一緒にいる、その事実だけが大切なんだ。
車窓から見える高層マンションのいくつも並んだ窓を見ながら、あの窓のひとつひとつが誰かの家だと思うと不思議な気がする。それぞれの窓はどんな愛を見てきたのだろう。
ようやく家に帰りついてドアノブに手をかけた時にポケットの中の携帯が震えた。
「睦人?」
「斗陽、ごめんなさい。今日だけは一緒に居たかったのに。何処にいるの?帰ってきて」
「え?帰ってきてって……お前どこにいるの?」
急いで部屋のドアを開ける。部屋の中には泣きそうな顔をした睦人が携帯を握りしめて立っていた。
「斗陽!」
携帯をごとんと床に落とすと、睦人は一目散に俺の腕の中に飛び込んできた。
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