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第4話 睦人の想い 2
どうして僕はきちんというべき事を言わなかったのだろう。
今までの十年間一度もお祝いなんてした事ない。この日を斗陽が覚えてなくて当然なのに。
勝手に記念日と盛り上がって、独りで勝手にいろいろと予定を立ててしまった。きっと斗陽なら笑って聞いてくれるとどこかで思っていたんだ。
飛び出して冷静になると、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。きっと斗陽の事だから、心配してマンションで待ってる。急いで今来た道を戻る。
「ごめんなさい」
そう言いながらドアを開けると、そこは誰もいない静かな部屋だった。
「と……う…や?」
何処に行ったのかわからない。悲しくなってしまう。何年経っても僕の気持ちをかき乱すのは、斗陽だけだ。ほかの何にもこんなに気持ちを揺すぶられることはない。
斗陽が座っていた椅子には朝着ていたシャツがひっかけられていた。そっとシャツを握りしめると、かすかに斗陽の香りがした。
こんなに同じ人のことを何年も同じ温度で思い続けていられる僕はなんて幸せなんだろう。そう、想い人に好きと言ってもらえて同じ時間を重ねてきた。
サプライズより必要なのは、この気持ちを伝えることだったんだ。シャツを握りしめたままソファに寝転んだ。
涙がなぜかこぼれてきて、斗陽のシャツを少し湿らせた。気が付いたら僕はソファで眠ってしまっていた。
ふと目が覚めて、慌てて体を起こした。どのくらい眠っていたのだろう。握りしめていた斗陽のシャツはくしゃくしゃになっていた。
「斗陽……帰ってきてないんだ」
携帯を取り出して、着信があったことに気が付いて。驚いた。外出の時は音がならないように設定してあるから気が付かなかった。斗陽からだ。
急いで斗陽の番号を呼びだす。数回のコールのあと、いつもと変わらない声に涙が出そうになる。帰ってきてと頼んだ次の瞬間にドアがかちゃりと開いた。
そしてそこには斗陽が携帯を耳に当てたまま立っていた。
転がり込むように腕の中に飛び込む。そして……「ごめんなさい」と謝った。
「どうしたの?泣いてる?一体何があったんだ」
僕がどれだけ好きか、きっと伝わることはないんだろうな。それでもいい。今ここにいる一瞬一瞬が宝物だから。
「お帰りなさい。そして、今日はどうしても言いたいことがあるから聞いて」
「俺もどうしても言いたいことがあるんだけど、話していい?」
お互い相手を見つめると、くすっと小さく笑った。
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