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第21話
その日の授業が、千歳は何も頭に入らず、とても長く感じた。
放課後が近づくにつれてだんだんと落ち着かない様子を、亮太に笑われるくらいに千歳は集中していなかった。
帰りのホームルームが終わるなり、和彦が声をかけてくる。
「千歳、コレ」
「なに?」
いきなり目の前に突き出された袋に、千歳は何だかわからず聞き返した。
「俺から二人への仲直り記念のプレゼント」
「ちょっと、カズ! それって……ぐぉっ!」
何かを言いかけた亮太は、和彦の脇腹への肘鉄により、見事に撃沈した。
そんな亮太を気にすることなく、和彦は話を続ける。
「あっ、今は開けるなよ、後でな」
「?……ありがとう」
終始笑顔の和彦が怖くもあったが、とりあえず千歳はそれを受け取りカバンへとしまった。
「まあ、結果はもうわかってるけど……」
「頑張って会長を落としてこい!」
笑顔の和彦と、なんとか復活した亮太の激励を受けて、千歳は正門へと向かった。
そして正門へと着くと、すでに優弥が立っていてその珍しい光景に、周りの生徒達が振り返っている。
「待たせてゴメン」
謝りながら千歳が走り寄ると、優弥は不機嫌そうな顔をした。
「遅い……お前が呼んでおきながら」
「だから、ごめんなさいって」
何だかいつも通りの態度が戻りつつある優弥に、千歳も自然と接することが出来た。
「じゃあ、帰ろうか」
「ああ……」
優弥と二人で正門を通る。
それはこの学園生活で初めてのことだった。
周りの生徒が二人を遠巻きに見ているのが痛いほど感じる。
優弥が迎えの車ではなく、歩いて門を出るのも珍しければ、千歳と一緒に歩いていることも珍しいのだろう。
自分達はエッチの時以外は、殆どといっていいほど接触がなかった。
それだって授業中や放課後の人の少ない時間帯だったし、連絡も優弥から一方的に送られてくるだけだった。
みんなの前で、堂々と優弥と並んで歩ける。
それがなんだか、千歳はとても嬉しかった。
(どうやって話を切り出そうか?)
千歳は歩きながら、本題を話すタイミングを考えていた。
他愛もない会話から……と思っても、その他愛もない会話すら思いつかない。
ゆっくり話すには、どこかで落ち着いた方がいいが、お店などに入ってしまうと周りが気になって話どころじゃないだろう。
「……瀬……高瀬!」
「えっ、何?」
自分を呼ぶ声と、後ろに引っ張られる感覚に千歳は我に返って立ち止まった。
「歩くの……早い」
千歳のブレザーの裾を右手で掴んでいる優弥にそう言われて、千歳はいつの間にか優弥のちょっと前を歩いていたことに気づく。
「あっ、ごめん!」
考えごとをしていたせいか、歩く速度があがっていたようだ。
謝って優弥の顔を千歳が覗き込んだ時だった。
(……え?)
「なにっ、どうした? 急に」
優弥の泣き顔が視界に飛び込んできて、千歳は驚いた。
「……嫌なんだろ?」
「え? 何が?」
言われた言葉の意味がわからずに聞き返すと、優弥は千歳の胸に顔を埋めてくる。
その背中に腕を回していいものか悩んでいると、嗚咽を漏らしながら優弥が言う。
「……やっぱり……俺なんかと、歩くの……嫌なんだ……」
「はあ? ちょっと待て、優弥!」
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がして、ここが一般の道だということも忘れ、千歳は慌てて優弥の身体を抱き締めて、その頭を優しく撫でた。
「優弥と歩くのが嫌ってどういうことだよ?」
「だってお前、さっきから何も言わないし……目だって、合わせようとしないじゃないかぁ」
それだけ言うと、優弥は千歳の胸に顔を押し付け、さらに泣き出した。
「あ~、優弥、とにかく落ち着け。ここじゃあれだから、違う場所で少し落ち着いて話そう。な?」
さすがにいつ誰が通るかもわからない往来の場で、男子高校生が抱き合っているのはまずいだろう。
千歳の言葉に優弥が小さく頷くのを確認すると、千歳は優弥の手を引いてその場から移動した。
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