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エピローグ Side:雲仙寺 紫呉 夢を見た。 壊される屋敷から、まだ輝く庭を持ち賑やかな声が絶えず聞こえてくる。 「旦那様」 俺は晤郎に旦那さまと言われていた。 「なんだよ。大体、お見合いなんていらねえし。相手が女として育てられた男ってなんだよ」 「優しくしてあげてください。旦那様は声がうるさいしがさつだし、心配です」 「だーかーらー、俺は男とエッチしたくねえし結婚は、やっぱ女とさア」 「こちらです」 不満ばっか口に出していたのに、いざ部屋に入ると固まった。 まだ幼さが残る、16歳の少年。 白無垢の着物を着て、震えていた。 俺を見るや否や、不安そうに口元を隠し下を向く。 こんな幼くて、折れてしまいそうな少年に、両家のクソ野郎どもは無理を強いて結婚させようとしていたのか。 被害者はおれじゃねえ。この少年だった。 「すまん。遅くなった。顔を上げて欲しい。俺は紫呉」 隣にドカッと座ると、少年は大きく体を揺らせたがおずおずと俺の顔を見上げた。 「……紫呉さん」 ぶあっと花が風で咲き乱れるような愛おしい気持ち。 俺に伸ばされた小さな手を、奪い取るように掴んだ。 すると、嬉しそうに少年は涙を流して抱き着いてきた。 「やべえ。超結婚してえ。結婚して」 「ふふふ。そのためにここに来ました。よろしくお願いいたします」 幸せそうに笑う少年を見て、俺は無性に泣きたくなった。 こんな過去だったら良かったのに。 こんな風に最初から俺だったら良かったのに。 抱きしめながらそう強く感じた。 「紫呉さん、紫呉さん」 とんとんと背中を叩かれ、目を開ける。 「もう出発しなきゃ解体作業に間に合いませんよ」 ジーンズを穿いただけの楓が、濡れた髪を犬のように振りながら立ち上がる。 部屋の中には、ダージリンティーの香ばしい匂いに包まれている。 「やべ、夢見てたわ」 「それはぐっすり眠っていましたね。朝ごはんどうします?」 「楓」 立ちあがって紅茶を持ってきてくれようとしていた楓を抱きしめる。 「どうしたんですか?」 「結婚しよう」 「まあ、いいですけど」 つれない返事だが、俺の頭を撫でてくれる楓は蕩けんばかりに笑っていた。 その笑顔だけで今までの悪夢が消えていく。 「それよりお腹空いてるんですけど」 「俺も、――超お腹空いてる」 紅茶を奪うとサイドテーブルに置いて、濡れた色っぽい楓をベットに沈める。 「……解体作業」 「少し遅れても構わんだろ。どうせ、一日じゃ終わらねえし」 「しょうがない人ですね」 おいで、と両手が伸ばされたので、奪うように掴むとそのまま覆いかぶさった。 大好きな楓の伸ばされた手は絶対に離さない。 Fin

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