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恋に落ちた瞬間から、不毛な恋の始まりだとなんとなく分かっていた。
だからきっと、こんな些細なこと目を瞑って受け流せばいいんだ。
あの切ない片想いをしていた時のことを思えば何ともないさ。
贅沢なんて言ってられない。
分かってる。
分かってるんだけど、
…でも。
「…ほんとに?…ほんとに俺がコッチ側やるんですか?」
「駄目、かな?」
そんな可愛い顔でお願いされたら、俺が駄目だ、なんて言えないの、分かってるくせに。
初めて柚さんを意識したのは入学して少し経ってからのことだった。
家から一番近いから、という単純な理由で徒歩5分圏内の男子校に入学したはいいが、あまりにも華のない生活にウンザリしてきていた頃だ。
生徒会や風紀委員の奴らが、顔で選ばれてんじゃないのかってくらい整った顔立ちをしていて、それにアイドルのファンのようにそれぞれに担当する親衛隊なんてものがある、と知った。
人気があり過ぎるとファン同士でいざこざが起きたり、本人に迷惑がかかったりすることがあるらしく、そんなことが起きないようにファンの中から1人まとめる人間を選び、そいつを中心に規律を守ってお慕いする。
抜け駆けは禁止。本人の許可なく無断で近付くものは容赦なく排除する。
それが俺の聞いた親衛隊というものだった。
ぶっちゃけ、なんだソレ、超おもしれーじゃんって思って興味本位で親衛隊とやらを見に行ったんだ。
特に生徒会長の親衛隊は数も多く規律も厳しいと聞き、それならばまず生徒会長親衛隊だ、と足を運んでみた。
そこで、初めて柚 さんを見たんだ。
まるで女の子みたいに線が細く整った顔立ちに、お人形さんのような愛らしさで、アレ?なんで男子校に女の子が?なんて錯覚したほど柚さんは今まで出会った誰よりも、可愛かった。
さり気なく親衛隊の1人に、あの人誰?と聞くと、生徒会長親衛隊のまとめ役だという回答。いわゆる親衛隊の隊長というやつだ。
学年は3年で、名前は長谷川 柚也 というらしい。
ゆずや…。ゆず。
名前まで可愛い。
同い年くらいかと思ったが年上だった。
それからいつの間にか柚さんを目で追うようになって、俺はたくさんの情報を得た。
柚さんは親衛隊のまとめ役を1年の時から今の生徒会長――その頃はまだ書記だったらしい、に任命され、それからずっと3年の現在まで解任されることなく続けているちょっとした有名人であること。
生徒会長も柚さんを一番信頼しているらしく付き合ってもおかしくない程、仲もいい。それなのに柚さんはまとめ役であるが故に、1人抜け駆けをする事はなく付き合うことはしていない。
でも、きっと生徒会長への想いは人一倍強い筈だ。そんな柚さんの姿勢に、他の親衛隊メンバーからは一目置かれ尊敬されている為、規律がしっかりと取れ生徒会長への度を越す接触が起こらないのだという。
そんな内部事情まで知れた頃には、俺は自分の柚さんに対する気持ちにハッキリ気付いてしまっていた。
俺、柚さんが好きだ。
それと同時に、柚さんは生徒会長が好きで、俺の恋はきっと実らない事も…。
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