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「村田 純希 です!1年生です!よろしくお願いします!」
それでも俺は柚さんへの気持ちを諦めきれず、思い立ったように生徒会長の親衛隊に入った。
もちろん生徒会長なんか好きでもなんでもない。ただ少しでも柚さんに近付きたい、仲良くなりたい、あわよくば振り向いて貰いたいという、邪な気持ちだった。
「純希くん、よろしくね。じゃあちょっと説明するから、こっちに来てくれる?」
それが柚さんと交わした最初の会話だ。
お近付きになる第一歩から生徒会長への接触に関するルールを説明され、柚さんの口から生徒会長の名前が出る度、じりじりと焼かれるような胸の痛みを感じた。
だけどあの憧れの柚さんの隣で、柚さんが俺の名前を呼んで俺だけの為に説明をしてくれている。
今、柚さんの時間を俺だけが独り占めしているのかと考えると、堪らなく嬉しくて泣きそうになった。
それからの毎日は、俺にとって超幸せな日々の幕開けだ。
「柚さん!今日は生徒会長登校されてましたよ!」
「変な子に絡まれてなかった?」
「はい!大丈夫です!告白は許容範囲内ですよね?」
「うん。付き合うか付き合わないかは会長が決める事だから」
そう言って微笑む柚さんを見てズキンと胸が痛んだ。
本当は柚さんが付き合いたい筈なのに。隊長なんかを任されて、それもままならない。俺なら柚さんにそんな辛い思いさせたりしないのに…何度拳を握り締めたか分からない。
「柚さん、生徒会長が食堂に居るみたいなんですけど、俺らも遠くから一緒にご飯食べません?」
「ご飯?…いいよ。行こっか」
それから俺は毎日のように柚さんを誘って一緒にご飯を食べるようになった。
柚さんが細い体の割に意外と食べる事を知り、甘いものに目がなく、ご飯の後には必ず何か糖分を摂取する。
俺がコンビニで買ったちょっといいお菓子を日々持参するようになるまでにそう時間はかからなかった。
「柚さん!もう帰るんですか?」
「やあ、純希くん。今から帰ろうと思ってて……あ」
「どうしました?」
放課後、鞄を持って廊下を歩いている柚さんの背中を見つけ、俺はすぐさま駆け寄って後ろから顔を覗き込んだ。
今日も柚さんは可愛い。肌荒れ知らずのたまご肌はさらさらでいつか触れて見たいとゴクリと喉が鳴る。
だけど柚さんが、あ、と呟いて窓から見下ろした先に生徒会長の姿を発見してしまい俺のテンションは急激に下がった。
会長は最近お気に入りの子を連れて、人目をはばからずイチャイチャしてる。
あんなののどこがいいんだ?
会長ファンの親衛隊の中には柚さんがいるんだぞ。
柚さんの可愛さに勝てるやつなんてどこにも居ないのに。
あの人って、ほんと見る目ない。
しかもそんな生徒会長を見下ろす柚さんの顔には何の表情も浮かんでいなくて、それが俺には心なしか寂しそうに見えた。
いつもは花が咲くように愛らしく笑うのに、会長が誰かと戯れているのを見るときだけ表情が欠落するんだ。
いつも柚さんを見ている俺にはよく分かる。
柚さん…もうあんなやつやめて、俺にしなよ。
なんて。
俺が生徒会長みたいに顔が良くて身長が高かったら躊躇わず言えるのかな。
なんで俺生徒会長みたいにイケメンじゃないんだろ。身長だって俺はかろうじて柚さんより高いだけだ。
どうして俺は柚さんの好きな生徒会長じゃないんだろう。
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