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第21話
「んッ、ん……」
全身を小刻みに震わせながら、圭は潮を吹き終える。
そんな圭を恭一郎は仰向けに寝かせ、柔らかな笑みを浮かべた。
「嬉しいものだな」
「俺ばっかり、ハズいっつーの……」
「だが身体の相性の良さは、これで証明されただろう?」
「う……ま、まあ……」
恭一郎は圭の両脚を割って身体を入り込ませると、腰を持ち上げて再び挿入する。
こうして改めて圭を見下ろすと、とんでもない色香が漂っているなと思った。
枕に散らした黒い髪、こちらを見つめる潤んだ瞳、未だ快感にわななく小さく開かれた口。
元々綺麗な容姿をしていることも相まって、性欲をこれでもかとばかりに刺激されてしまう。
「ッ、き、恭一郎……」
「何だ?」
「もっと、奥……突いて……」
こうして自分が気持ちいい思いをしたいと訴えてくるのも、多分番になったからだろう。
恭一郎がそれに応えようと腰を大きく引いて、パン──、と打ち付ければ、圭は喉を反らして快感の悦びを喘ぎにして伝えてくれる。
「ああっ、スゴ……気持ちいい……っ……」
まるで杭を打ち込まれているような感覚に、圭はどうしようもなく感じてしまう。
次々と流れ込む快楽をいなせず、思わず内側で暴れる恭一郎自身を力一杯締め付けてしまう。
「圭、力を抜け」
「ムリだって……意識、飛んじゃいそうで……つーか、お前が加減しろ」
「してやってもいいが、それでは満たされないだろう?」
ああ言えばこう言う。
そう言えば、恭一郎は別に無口なヤツじゃなかったんだなと、圭は鈍る思考の中で思い出した。
少なくとも高校を卒業するくらいまでは、ジョークを言い合ったり他愛のない話題で盛り上がったりしていた。
なのに、彼はいつから口数が少なくなったのだろう。
「はぁッ、あ……んぅッ……ひぁ!?」
「集中しろ」
宙送が早くなると、圭は恭一郎の首に両腕を巻き付け、下から唇を押し当てた。
熱い吐息の交換が、とんでもなく気持ちいい。
彼がいつから無口だったかなんて、もうどうでもいい。
自分を番にし、抱いてくれて、ゼロ距離なのだから、今は邪心に捉われることなくセックスを堪能すべきだとばかりに、しがみついた。
それから2週間後──。
圭は恭一郎に付き添ってもらい、姉の元を訪れていた。
もっとも恭一郎は廊下で待つと言うので、圭だけが診察室に入って聖と向き合っている状態だ。
「番になったらなったで、まあそれなりの苦労はあるんだけど……今度はその苦労をアンタだけじゃなく、相手も背負うことになる。それだけは覚えておきなさいよ」
「じゃ、ここへはもう……」
「来なくていいわ。抑制剤も市販のやつで問題ないし、ま、開華したΩのアンタは無事番のαを手に入れました。それでこのお話はジ・エンド」
「ありがとな、姉ちゃん!」
そう言って病室から出て行く弟の背を見送りながら、恭一郎がこの場に居合わせなくて良かったと、心からそう思っていた。
「恭一郎、帰ろうぜ」
診察室から出てきた圭は、外をぼんやり見つめる恭一郎に話しかけた。
「ああ、終わったのか?」
「もうここへは来なくていいって。俺、どんだけここに世話になったか……」
「そうか、もう来なくていいのか。じゃあ、卒論に集中できるな?」
「もち。就活もできる」
圭のように、男性αと番になれる男性Ωは、この世界に一体何人いるのだろう。
恭一郎は圭がΩであってもなくても関係ないと言ってくれているが、その言葉だけはどうしても腹の中で懐柔できていない。
決して綺麗事だと否定する気はないのだが、闇の中にいる圭に手を差し伸べるためにそう言ったのではないだろうか。
分かりにくい優しさを発揮するのは恭一郎の得意技なのだから、そういう意図が隠されていたとしてもおかしくはない。
「圭、どうした?」
「何でもない。会計済ませて卒論やるぞ!手伝えよ、恭一郎!」
「院内で喚くな」
それでも、圭はやっぱり幸せを噛み締めずにはいられなかった。
加納恭一郎が運命の番になってくれたこと、これからずっとそばにいられることが嬉しくてたまらない。
「あ……」
「今度は何だ?」
ふと立ち止まった圭を見つめ、恭一郎は片眉を吊り上げた。
すると圭が恭一郎の耳に妖しく囁く。
「卒論の前に、抱いてくれねーか?」
「──ッ!?」
「だめ……か……?」
「……だめとは言っていない」
開華したΩは、どうやら小悪魔のような一面を持ち合わせているようだった。
(終わり)
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